忍者ブログ 祈5-夢 てすと中MOON-NIGHT&LOVERS-KISS
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「夏樹様ーっ!・・何処ですかーっ!?」

遠くで、誰かが大きな声で僕を呼んでいる・・・

僕は、重い瞼を、どうにか開けると、まだはっきりしない頭で考える。

ここは何処だろう・・・

暗いせいもあって、自分がどこに居るのか、すぐには解らなかった僕。

しかし、空に光る月と、髪を揺らす冷たい風で、ここが裏庭なのだと思い出す。


ポカポカと暖かい日差しに誘われて、外に出たのは昼過ぎの事だった。

そして、そのまま芝生の上で寝てしまったのだろう。
もうすでに、日はとっぷりと暮れてしまっていた。


「何処ですかーっ?・・・夏樹様ーっ!・・・」

心配そうな、執事の中野の声。

「中野・・・屋敷の者を全て集めろ・・・手分けして探すんだ・・・」

「かしこまりました・・・旦那様・・・」

「返事はいいから早くしろ・・・」

懐かしい声・・・
これは兄さんの声だ・・・

長い出張に行っていたはずなのに、いつ帰って来たんだろう。

「何処に居るーっ!・・・夏樹ーっ!・・・返事をしろーっ!・・・」

兄さんが、あんなに大きな声を出しているのを、初めて聞いた。

それは、いつものように怒っているようでもあり・・・
意外な事に・・・心配しているような声でもあった。

早く返事をしなきゃ・・・

(兄さん・・・)

あれ・・・声が・・・出ない・・・

あわてて身体を起こそうと思うが、冷え切った身体は、なぜか腕一本動かせない。

「夏樹ーっ!・・・何処だーっ!・・・」

(兄さん・・・ここだよ・・・兄さん・・・)

必死で叫ぼうとするが、ヒューヒューと空気の漏れるような微かな音がするだけで、
息をするのさえ、困難になってくる。

なぜ?・・・

ああ・・・そうだ・・・

僕は、そこで初めて気が付いた。
昼食の後・・・薬を飲むのを忘れていた事に・・・

大変だ・・・
どうしよう・・・


「夏樹ーっ!・・・返事をしろーっ!・・・」

兄さんの声が・・・僕を呼んでいるのに・・・
叫ぶ事も・・・身動きする事も出来ない。


やがて・・・身体が痙攣するように小刻みに震え出し・・・
視界を奪われるように、月や星の光が、すぅーと暗くなる・・・

薄れ行く意識の中で・・・
死の覚悟さえする僕・・・

(兄さん・・・もう一度だけ・・・兄さん・・・)

もう闇しか映していない瞳から・・・涙がこぼれる・・・


「夏樹っ!・・・しっかりしろっ!・・・夏樹っ!・・・」

最後に・・・
耳元で・・・
兄さんの声が聞こえたような・・・

そんな気がした・・・








「夏樹君・・・目が覚めたかな?」

ふと目を開けると、白衣の男の人が僕の顔を覗き込んでいた。
主治医の岡部先生だった。

(ああ・・・助かったんだ・・・)

童顔で優しそうな岡部先生の顔を見て、僕は心の底から安心した。

「夏樹君・・・なぜお昼に薬を飲まなかったんだい?」

「忘れてました・・・ごめんなさい・・・」

「今度から、もっと気を付けなさいね・・・もう少しで危なかったんだよ・・・」

きっと岡部先生は、これでも精一杯怒っているのだろう。
でも、もともと優しい顔をしているせいで、ちっとも怖くない。
子供や、お年寄り、それに女性から、とても人気があるのも解るような気がする。

「それから・・・お庭で居眠りなんかしては駄目ですよ・・・
風邪をひいただけでも、あなたの身体には負担になりますからね。」

「は~い。」

「ほんとにわかってるのかい・・・夏樹君・・・」

そう言って笑いながら、僕の額を指でつつく岡部先生。

「さあ、もう大丈夫だから、起き上がってごらん。
 そろそろ誠司も迎えに来る頃だからね・・・」

その言葉に・・・
僕は、驚いた。

「兄さんが・・・?」

咄嗟に思ったのは・・・怒られる、って事だった。

兄さん自らがここへ来るほど、怒っているのだと・・・

「誠司とは長い付き合いだが、あんなに、取り乱した彼を見るのは初めてだったよ・・・」

岡部先生の言葉に、僕は混乱した。
そして、思わず聞き返していた。

「取り乱す?・・・」

兄さんが?・・・
なぜ僕の事で・・・


「ぐったりした君を抱いてね・・・青い顔をして飛び込んできたよ・・・あの誠司がね・・・」


知らなかった・・・
兄さんが運んでくれたなんて・・・



「私が、一目見て・・・『危ないかもしれない』って言ったら、私の胸倉を掴んで・・・
 必ず助けろっ!・・・いいな・・・岡部っ!・・・』って・・・正直、怖かったね・・・」

岡部先生は、フフッと笑いながら続けた。

「だから君が元気になって、私もほっとしてるんだよ・・・」

信じられない・・・
あの兄さんが、どうしてそんなに僕の心配をしたのか・・・


わからない・・・




やがて・・・
誰かが、ドアをノックした・・・

「はい、どうぞ。」

開かれた扉の向こうには・・・兄さんが立っていた。

兄さんは、目を覚ましている僕を見て、明らかにほっとした表情を浮かべている。

そして、側に来て、何も言わずに、優しく僕の頬に手を当てた。

懐かしい・・・感触だった・・・

そして、気がついたら僕は泣いていた。

「夏樹・・・」

困ったような兄さんの声・・・

そして、兄さんは・・・昔のように僕を抱きしめてくれた。

大きな手で・・・僕の背中をあやすように撫でてくれた。

夢ではないだろうか・・・

求め続けた・・・
優しさ・・・温もり・・・

どうか夢なら覚めないで欲しい・・・





そして・・・
兄さんは、軽々と僕を抱きかかえる・・・

「さあ・・・帰ろう夏樹・・・」

僕の耳元に、優しい声・・・

病室を出て行く間際、兄さんは岡部先生に声をかけた。

「岡部・・・恩に着る・・・」

「なぁに・・・これが僕の仕事さ・・・」







次の日の朝・・・

目を覚ました時には、僕は自分の部屋に寝かされていた。

・・・夢・・・だったの?・・・

一瞬、そんな錯覚に陥る僕。

いや・・・夢なんかじゃない・・・
夕べ、兄さんに抱き上げられた時の感覚を、僕の身体がはっきりと覚えていた。



しかし、その事が夢だったのか、現実だったのか、
月日が経つにつれて、僕の中で曖昧になってきていた。

なぜなら、兄さんの僕に対する態度は、何も変わっていなかったから・・・

兄さんが優しかったのは、あの病院での夜だけだった。
次の朝からは、元の冷たい兄さんに戻っていた。


そう・・・
文字通り、あれは束の間の夢・・・

岡部先生の手前、優しさを装っていただけなのか・・・
それとも、ただの兄さんの気まぐれだったのか・・・


でも・・・僕はそれでもよかった。

だって、その夢は僕を幸せにしてくれたから・・・






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2009,06,21

素敵サイトさま、1件。1月31日。じゅん創作、運命は、奪い与える。本編、番外。全掲載完了。
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