忍者ブログ 再会 てすと中MOON-NIGHT&LOVERS-KISS
       暇人作成妄想創作BL風文字屋主文書副絵詩色々
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「再会。」










「夏樹様・・・」

扉をノックする音と共に、執事の中野の声が聞こえる。

ベットに座りこんだまま、暫く考え込んでいた僕は、はっと我に返った。
慌てて時計を見ると、すでにかなり切羽詰った時間になっている。

更にもう一度・・・
せわしなくノックの音がしたと思ったら、返事をする間もなく、中野が部屋に入ってきた。

「夏樹様、お時間がありませんので失礼します。」

中野は、一目見ただけですぐに、僕の体調が良くない事に気が付いた。

「夏樹様、お顔色があまりすぐれないご様子ですが・・・」

僕は、隠しても仕方の無い事だと、気の無い返事を返す。

「ああ・・・そうみたいだね・・・」

中野は心配そうに僕の頬や額に手を当てる。

「少しお熱があるようですが・・・今日の式は、どう致しましょう?」

僕は、考えるまでもなく、すでに決めていた返事を返した。

「もちろん・・・出席します・・・」

「ですが・・・夏樹様・・・もし何かあったら・・・この中野めが旦那様に・・・」

「大丈夫です・・・」



はっきりとした僕の決意を、肌で感じ取ったのだろう。
中野さんは、それ以上何も聞かずに、黙って僕の支度を手伝ってくれた。

きっと・・・とても僕一人では、支度できなかっただろう。
何しろ、立っているのさえ、やっとだったのだから・・・



そして、式場までむかう車の中で、僕は少しだけ眠ってしまった。

そのせいか、式場に着くころには、少しだけだけど・・・
気分がよくなっていた。








式場となる大きな教会・・・

聖書の世界を描いた、何枚もの巨大なステンドグラス・・・



僕は、物珍しそうに辺りを見回していた・・・

いったい何人来ているのだろう。
知らない人ばかりで途方に暮れてしまう。


その時・・・
ふいに後ろから、聞いたことのある声が僕を呼んだ。

「夏樹っ!」

振り返った僕の目に・・・
男らしく成長した「あの人」の姿が映った。

「な・・・直道兄さん・・・」

込み上げる懐かしさと共に、忌わしいあの日の記憶が脳裏によぎる。

兄さんを・・・
誠司兄さんを失った・・・あの日・・・

あれ以来・・・
お屋敷から姿を消した直道兄さんとは、一度も会っていない。
噂では、西条財閥系列の子会社で頭角を現し、今ではそれなりに確固たる地位を築きつつあるという。

しかし・・・
直道兄さんは、僕にとって・・・あの時の直道兄さんであり・・・

まだまだ僕の心には、禁忌(タブー)とさえ言える存在だった。


「夏樹っ!・・・」

直道兄さんは、何人かの取巻き連中を置き去りにして、僕に駆け寄ってくる。

その表情には、懐かしさと共に、明らかな「哀情」を忍ばせて・・・

そう・・・直道兄さんもまた・・・
永い年月・・・苦しんでいたのだろう・・・


でも・・・
僕の身体を支配していたのは・・・

不安・・・

そして・・・

恐怖・・・



無意識に後ずさりする僕の腕を、直道兄さんはしっかりと掴む。

「会いたかった・・・夏樹・・・」

「嫌だ・・・」

僕の頭の中には・・・この場を離れる事しかなかった。
一刻でも、早く・・・直道兄さんから離れないと・・・

しかし・・・
抗う僕の声は・・・ひっかかったように擦れ・・・
身体は、硬直したように言う事を聞かない。

その手を振り払おうとしても、僕の力はあまりにも弱々しく、
反対に、逞しくなった直道兄さんに、しっかりと抱き締められてしまう。


こんな所を兄さんに見られたら・・・

冷たい声・・・
去って行く背中・・・

あの時の光景・・・もうあんな想いはたくさんだ・・・



膨れ上がる恐怖に・・・
息が苦しくなり、肩が震える。

そんな僕に、直道兄さんは真剣に言葉をかける。

「夏樹・・・頼むから怖がらないでくれ・・・
何もしないから・・・俺はただ・・・お前に謝りたいと思っていたんだ。」

とても・・・
辛そうな声だった・・・

それは、過去に犯した自分の罪に対し・・・
何年もの後悔を重ねた、ある種の叫びだった。

そして・・・
直道兄さんは、僕の背中をそっとさすってくれる。

あやすように・・・優しく・・・優しく・・・

「夏樹・・・可哀相な夏樹・・・俺のせいで・・・」

その優しい声に・・・
その大きな手に・・・

不思議と僕は・・・落ち着きを取り戻してゆく。

「直道兄さん・・・」

それ以上、何をどう言えばいいのかわかない・・・

「夏樹・・・俺は・・・俺は・・・」

直道兄さんは、何か言いかけたまま・・・僕をきつく抱きしめる・・・

その温もりは・・・
何処か・・・似ていた・・・
昔の誠司兄さんに・・・



どれ程の間そうしていただろうか・・・

やがて、直道兄さんは・・・

「本当に・・・すまなかった・・・夏樹・・・」

それだけを言って、僕に背中を向けた。


去って行く背中が・・・
あの日の兄さんの背中と重なって見えた。

僕は・・・
何故か急に寂しく感じて・・・




その時だった。

「夏樹様っ!・・・こちらにおいででしたか・・・」

誠司兄さんの秘書・・・石田さんの声・・・

「誠司様がお呼びです・・・夏樹様。」

「兄さんが?」

その瞬間、僕の頭の中から、直道兄さんの事は吹き飛んでいた。


僕は、激しく動揺して石田さんの顔を見つめる。

兄さんが・・・いったい何の用だろう?・・・

もしかしたら、僕を式に呼んだのは間違いだったと思っているのかもしれない。

それとも、今日を限りに西条の家を出てゆけって言われるのかも・・・

そうなったらどうしよう・・・
身体の弱い僕が、生きてゆけるだろうか・・・一人で・・・

考えれば考えるほど、思考は悪い方へ傾いていってしまう。


縋るような目で石田さんを見つめる僕。

「夏樹様、少し急いでください。」

僕の不安など、全く気付かないように、石田さんは僕を促す。

「あ・・・はい。」





案内されたのは、新郎の控え室だった。

石田さんは、扉をノックする前に僕に声をかけてくれる。

「夏樹様、顔色があまりよくありませんが・・・大丈夫ですか?」

僕は、思ってもみなかった優しい声に、泣きそうになるのを堪えて返事をした。

「ありがとう・・・大丈夫です・・・」

「そうですか、もしご気分が悪くなったら、いつでも私に言ってください。」

石田さんは、そう言うと扉をノックした。

「石田です。夏樹様をお連れしました・・・」

「ああ・・・入れ。」


扉の向こうから・・・
兄さんの・・・低い声が聞こた。




PR
since 2009/01/17~
ぱちぱち♪ーー更新履歴ーー
★--更新履歴--★
2009,06,21

素敵サイトさま、1件。1月31日。じゅん創作、運命は、奪い与える。本編、番外。全掲載完了。
ただいま、運営テスト中
かにゃあ♪
メインメニュー
goannai
goannai posted by (C)つきやさん
猫日記、ポエム、絵本など。
プロフィール

引きこもり主婦、猫好き、らくがき、妄想駄文作成を趣味。
ブログ内検索
P R
忍者ブログ [PR]