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「再会。」
「夏樹様・・・」
扉をノックする音と共に、執事の中野の声が聞こえる。
ベットに座りこんだまま、暫く考え込んでいた僕は、はっと我に返った。
慌てて時計を見ると、すでにかなり切羽詰った時間になっている。
更にもう一度・・・
せわしなくノックの音がしたと思ったら、返事をする間もなく、中野が部屋に入ってきた。
「夏樹様、お時間がありませんので失礼します。」
中野は、一目見ただけですぐに、僕の体調が良くない事に気が付いた。
「夏樹様、お顔色があまりすぐれないご様子ですが・・・」
僕は、隠しても仕方の無い事だと、気の無い返事を返す。
「ああ・・・そうみたいだね・・・」
中野は心配そうに僕の頬や額に手を当てる。
「少しお熱があるようですが・・・今日の式は、どう致しましょう?」
僕は、考えるまでもなく、すでに決めていた返事を返した。
「もちろん・・・出席します・・・」
「ですが・・・夏樹様・・・もし何かあったら・・・この中野めが旦那様に・・・」
「大丈夫です・・・」
はっきりとした僕の決意を、肌で感じ取ったのだろう。
中野さんは、それ以上何も聞かずに、黙って僕の支度を手伝ってくれた。
きっと・・・とても僕一人では、支度できなかっただろう。
何しろ、立っているのさえ、やっとだったのだから・・・
そして、式場までむかう車の中で、僕は少しだけ眠ってしまった。
そのせいか、式場に着くころには、少しだけだけど・・・
気分がよくなっていた。
式場となる大きな教会・・・
聖書の世界を描いた、何枚もの巨大なステンドグラス・・・
僕は、物珍しそうに辺りを見回していた・・・
いったい何人来ているのだろう。
知らない人ばかりで途方に暮れてしまう。
その時・・・
ふいに後ろから、聞いたことのある声が僕を呼んだ。
「夏樹っ!」
振り返った僕の目に・・・
男らしく成長した「あの人」の姿が映った。
「な・・・直道兄さん・・・」
込み上げる懐かしさと共に、忌わしいあの日の記憶が脳裏によぎる。
兄さんを・・・
誠司兄さんを失った・・・あの日・・・
あれ以来・・・
お屋敷から姿を消した直道兄さんとは、一度も会っていない。
噂では、西条財閥系列の子会社で頭角を現し、今ではそれなりに確固たる地位を築きつつあるという。
しかし・・・
直道兄さんは、僕にとって・・・あの時の直道兄さんであり・・・
まだまだ僕の心には、禁忌(タブー)とさえ言える存在だった。
「夏樹っ!・・・」
直道兄さんは、何人かの取巻き連中を置き去りにして、僕に駆け寄ってくる。
その表情には、懐かしさと共に、明らかな「哀情」を忍ばせて・・・
そう・・・直道兄さんもまた・・・
永い年月・・・苦しんでいたのだろう・・・
でも・・・
僕の身体を支配していたのは・・・
不安・・・
そして・・・
恐怖・・・
無意識に後ずさりする僕の腕を、直道兄さんはしっかりと掴む。
「会いたかった・・・夏樹・・・」
「嫌だ・・・」
僕の頭の中には・・・この場を離れる事しかなかった。
一刻でも、早く・・・直道兄さんから離れないと・・・
しかし・・・
抗う僕の声は・・・ひっかかったように擦れ・・・
身体は、硬直したように言う事を聞かない。
その手を振り払おうとしても、僕の力はあまりにも弱々しく、
反対に、逞しくなった直道兄さんに、しっかりと抱き締められてしまう。
こんな所を兄さんに見られたら・・・
冷たい声・・・
去って行く背中・・・
あの時の光景・・・もうあんな想いはたくさんだ・・・
膨れ上がる恐怖に・・・
息が苦しくなり、肩が震える。
そんな僕に、直道兄さんは真剣に言葉をかける。
「夏樹・・・頼むから怖がらないでくれ・・・
何もしないから・・・俺はただ・・・お前に謝りたいと思っていたんだ。」
とても・・・
辛そうな声だった・・・
それは、過去に犯した自分の罪に対し・・・
何年もの後悔を重ねた、ある種の叫びだった。
そして・・・
直道兄さんは、僕の背中をそっとさすってくれる。
あやすように・・・優しく・・・優しく・・・
「夏樹・・・可哀相な夏樹・・・俺のせいで・・・」
その優しい声に・・・
その大きな手に・・・
不思議と僕は・・・落ち着きを取り戻してゆく。
「直道兄さん・・・」
それ以上、何をどう言えばいいのかわかない・・・
「夏樹・・・俺は・・・俺は・・・」
直道兄さんは、何か言いかけたまま・・・僕をきつく抱きしめる・・・
その温もりは・・・
何処か・・・似ていた・・・
昔の誠司兄さんに・・・
どれ程の間そうしていただろうか・・・
やがて、直道兄さんは・・・
「本当に・・・すまなかった・・・夏樹・・・」
それだけを言って、僕に背中を向けた。
去って行く背中が・・・
あの日の兄さんの背中と重なって見えた。
僕は・・・
何故か急に寂しく感じて・・・
その時だった。
「夏樹様っ!・・・こちらにおいででしたか・・・」
誠司兄さんの秘書・・・石田さんの声・・・
「誠司様がお呼びです・・・夏樹様。」
「兄さんが?」
その瞬間、僕の頭の中から、直道兄さんの事は吹き飛んでいた。
僕は、激しく動揺して石田さんの顔を見つめる。
兄さんが・・・いったい何の用だろう?・・・
もしかしたら、僕を式に呼んだのは間違いだったと思っているのかもしれない。
それとも、今日を限りに西条の家を出てゆけって言われるのかも・・・
そうなったらどうしよう・・・
身体の弱い僕が、生きてゆけるだろうか・・・一人で・・・
考えれば考えるほど、思考は悪い方へ傾いていってしまう。
縋るような目で石田さんを見つめる僕。
「夏樹様、少し急いでください。」
僕の不安など、全く気付かないように、石田さんは僕を促す。
「あ・・・はい。」
案内されたのは、新郎の控え室だった。
石田さんは、扉をノックする前に僕に声をかけてくれる。
「夏樹様、顔色があまりよくありませんが・・・大丈夫ですか?」
僕は、思ってもみなかった優しい声に、泣きそうになるのを堪えて返事をした。
「ありがとう・・・大丈夫です・・・」
「そうですか、もしご気分が悪くなったら、いつでも私に言ってください。」
石田さんは、そう言うと扉をノックした。
「石田です。夏樹様をお連れしました・・・」
「ああ・・・入れ。」
扉の向こうから・・・
兄さんの・・・低い声が聞こた。
「夏樹様・・・」
扉をノックする音と共に、執事の中野の声が聞こえる。
ベットに座りこんだまま、暫く考え込んでいた僕は、はっと我に返った。
慌てて時計を見ると、すでにかなり切羽詰った時間になっている。
更にもう一度・・・
せわしなくノックの音がしたと思ったら、返事をする間もなく、中野が部屋に入ってきた。
「夏樹様、お時間がありませんので失礼します。」
中野は、一目見ただけですぐに、僕の体調が良くない事に気が付いた。
「夏樹様、お顔色があまりすぐれないご様子ですが・・・」
僕は、隠しても仕方の無い事だと、気の無い返事を返す。
「ああ・・・そうみたいだね・・・」
中野は心配そうに僕の頬や額に手を当てる。
「少しお熱があるようですが・・・今日の式は、どう致しましょう?」
僕は、考えるまでもなく、すでに決めていた返事を返した。
「もちろん・・・出席します・・・」
「ですが・・・夏樹様・・・もし何かあったら・・・この中野めが旦那様に・・・」
「大丈夫です・・・」
はっきりとした僕の決意を、肌で感じ取ったのだろう。
中野さんは、それ以上何も聞かずに、黙って僕の支度を手伝ってくれた。
きっと・・・とても僕一人では、支度できなかっただろう。
何しろ、立っているのさえ、やっとだったのだから・・・
そして、式場までむかう車の中で、僕は少しだけ眠ってしまった。
そのせいか、式場に着くころには、少しだけだけど・・・
気分がよくなっていた。
式場となる大きな教会・・・
聖書の世界を描いた、何枚もの巨大なステンドグラス・・・
僕は、物珍しそうに辺りを見回していた・・・
いったい何人来ているのだろう。
知らない人ばかりで途方に暮れてしまう。
その時・・・
ふいに後ろから、聞いたことのある声が僕を呼んだ。
「夏樹っ!」
振り返った僕の目に・・・
男らしく成長した「あの人」の姿が映った。
「な・・・直道兄さん・・・」
込み上げる懐かしさと共に、忌わしいあの日の記憶が脳裏によぎる。
兄さんを・・・
誠司兄さんを失った・・・あの日・・・
あれ以来・・・
お屋敷から姿を消した直道兄さんとは、一度も会っていない。
噂では、西条財閥系列の子会社で頭角を現し、今ではそれなりに確固たる地位を築きつつあるという。
しかし・・・
直道兄さんは、僕にとって・・・あの時の直道兄さんであり・・・
まだまだ僕の心には、禁忌(タブー)とさえ言える存在だった。
「夏樹っ!・・・」
直道兄さんは、何人かの取巻き連中を置き去りにして、僕に駆け寄ってくる。
その表情には、懐かしさと共に、明らかな「哀情」を忍ばせて・・・
そう・・・直道兄さんもまた・・・
永い年月・・・苦しんでいたのだろう・・・
でも・・・
僕の身体を支配していたのは・・・
不安・・・
そして・・・
恐怖・・・
無意識に後ずさりする僕の腕を、直道兄さんはしっかりと掴む。
「会いたかった・・・夏樹・・・」
「嫌だ・・・」
僕の頭の中には・・・この場を離れる事しかなかった。
一刻でも、早く・・・直道兄さんから離れないと・・・
しかし・・・
抗う僕の声は・・・ひっかかったように擦れ・・・
身体は、硬直したように言う事を聞かない。
その手を振り払おうとしても、僕の力はあまりにも弱々しく、
反対に、逞しくなった直道兄さんに、しっかりと抱き締められてしまう。
こんな所を兄さんに見られたら・・・
冷たい声・・・
去って行く背中・・・
あの時の光景・・・もうあんな想いはたくさんだ・・・
膨れ上がる恐怖に・・・
息が苦しくなり、肩が震える。
そんな僕に、直道兄さんは真剣に言葉をかける。
「夏樹・・・頼むから怖がらないでくれ・・・
何もしないから・・・俺はただ・・・お前に謝りたいと思っていたんだ。」
とても・・・
辛そうな声だった・・・
それは、過去に犯した自分の罪に対し・・・
何年もの後悔を重ねた、ある種の叫びだった。
そして・・・
直道兄さんは、僕の背中をそっとさすってくれる。
あやすように・・・優しく・・・優しく・・・
「夏樹・・・可哀相な夏樹・・・俺のせいで・・・」
その優しい声に・・・
その大きな手に・・・
不思議と僕は・・・落ち着きを取り戻してゆく。
「直道兄さん・・・」
それ以上、何をどう言えばいいのかわかない・・・
「夏樹・・・俺は・・・俺は・・・」
直道兄さんは、何か言いかけたまま・・・僕をきつく抱きしめる・・・
その温もりは・・・
何処か・・・似ていた・・・
昔の誠司兄さんに・・・
どれ程の間そうしていただろうか・・・
やがて、直道兄さんは・・・
「本当に・・・すまなかった・・・夏樹・・・」
それだけを言って、僕に背中を向けた。
去って行く背中が・・・
あの日の兄さんの背中と重なって見えた。
僕は・・・
何故か急に寂しく感じて・・・
その時だった。
「夏樹様っ!・・・こちらにおいででしたか・・・」
誠司兄さんの秘書・・・石田さんの声・・・
「誠司様がお呼びです・・・夏樹様。」
「兄さんが?」
その瞬間、僕の頭の中から、直道兄さんの事は吹き飛んでいた。
僕は、激しく動揺して石田さんの顔を見つめる。
兄さんが・・・いったい何の用だろう?・・・
もしかしたら、僕を式に呼んだのは間違いだったと思っているのかもしれない。
それとも、今日を限りに西条の家を出てゆけって言われるのかも・・・
そうなったらどうしよう・・・
身体の弱い僕が、生きてゆけるだろうか・・・一人で・・・
考えれば考えるほど、思考は悪い方へ傾いていってしまう。
縋るような目で石田さんを見つめる僕。
「夏樹様、少し急いでください。」
僕の不安など、全く気付かないように、石田さんは僕を促す。
「あ・・・はい。」
案内されたのは、新郎の控え室だった。
石田さんは、扉をノックする前に僕に声をかけてくれる。
「夏樹様、顔色があまりよくありませんが・・・大丈夫ですか?」
僕は、思ってもみなかった優しい声に、泣きそうになるのを堪えて返事をした。
「ありがとう・・・大丈夫です・・・」
「そうですか、もしご気分が悪くなったら、いつでも私に言ってください。」
石田さんは、そう言うと扉をノックした。
「石田です。夏樹様をお連れしました・・・」
「ああ・・・入れ。」
扉の向こうから・・・
兄さんの・・・低い声が聞こた。
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