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シャワーを浴びる成久。
ベッドの上で呆然と身体を横たえたまま、僕は水の流れる音を聞いていた。
痛みで軋む身体を、どうにか起こし床に散らばる服を掴む。
身体のあちこちが、ぎしぎしと痛む。
成久が、僕の中に注ぎ込んだものが、ドロリと零れ出して股の間をつたう。
泣きたい気分になるが、拭いている暇も無く、服を身に付ける。
シャツのボタンは弾けとび、見る影もなくなっていた。
成久が、シャワーから出てくる前に、部屋をあとにしたい。
今の僕には、成久から逃げ出す事しか考えられなかった。
水の流れる音が止まった。
もう彼が出てきてしまう。
のんびりとしている時間はない。
僕がドアを開けるのと、成久がシャワー室から出て来るのがほぼ同時だった。
「待てっ!!・・・汀っっ!!」
成久は、僕が出ていこうとしているのに気がつき、怒鳴り声を上げる。
僕は慌てて部屋から飛び出した。
エレベーターが来るのを待っている余裕なんてなかった。
僕は、追い立てられるように階段を駆け下りた。
フロントを抜けようとした所で僕は、呼びとめられる。
「お客さん、大丈夫ですか?」
「えぇ・・・」
「何かありましたか?」
その声は、問題はごめんだといいたそうな感じだった。
僕は、従業員に腕を掴まれてしまう。
僕の視界にエレベータの表示がうつる。
それは、どんどん下に降りてきている。
成久だ・・・
僕は、従業員の腕を振り払って外へ飛び出す。
従業員の呼び止める声が聞こえる。
僕は、その声を無視して駆け出した。
夜はまだ明けてはいない。
毒々しい、ホテルの看板の光だけが、左右に流れ去って行く。
僕は走った。
痛む体に鞭打って走る。
走るたびに、中に出されたおぞましいモノが、太ももにまで伝い流れる。
それでも、走ることをやめるなんて出来なかった。
直ぐ後ろに、成久が迫っているような、強迫観念に捕らわれる。
振り向く事すら恐ろしい。
どれぐらい、走っただろうか?
僕は、今まで来た事のない場所へ辿り着いていた。
それでも、僕は足を止めることが出来ない。
止まれば、捕まえられるような気がして・・・
だから僕は、まだまだ必死になって走った。
そのうち脚が攣ったように痛み出す。
引きずるように運ぶ足がもつれる。
身体が前のめりに宙を舞う。
路肩に積んであるゴミ袋に頭から倒れ込んでいく。
それでも走ろうと、身体をもがかせるが、すでに立ち上がる事すら出来ない。
心臓が飛び出しそうなほど、息が激しい。
鼓動が頭にガンガン響く。
もう駄目だ・・・
指一本ですら鉛のように重い。
自分が情けなくなる。
成久からの電話に嬉し涙さえ流した。
着て行く服を悩むほど、浮かれていた。
夢が叶った子供のように、会えるのを楽しみにしていた。
それは、ついさっきの事なのだ。
後悔なんて、しないと誓ったのに、まさかこんな事になるなんて・・・
どうして・・・
どうして会ってしまったんだろう。
今なら少しわかる気がする。
そう・・・僕は自分の心が知りたかったのだろう。
成久への気持ちを捨て切れなかったのも事実。
優しく支えてくれた「あの人」の気持ちに、応えたいと思っていたのも事実。
けじめをつけたかったのだ。
今でははっきりと答えは出ている。
( あの人の気持ちに応えたい・・・)
散乱したゴミの中に横たわったまま、僕は自分を蔑むように苦笑する。
( 救いようの無い馬鹿だ・・・僕は・・・)
いったいどんな顔をして、あの人に会うというんだ。
もう、会えるわけない。
合わす顔がない。
本当は、あの人との約束をキャンセルしてまで、成久と会っていたのだ。
外せない用事が出来たと、嘘をついた。
あの人は優しく笑って、いいよって言ってくれた。
僕は・・・あの人を騙してまで、成久に会う事を選んだ。
この三年間、何でも話してきたのに・・・
あの人は、事実を知ったらどう思うだろう?
涙が込み上げる。
必死で堪える。
僕には泣く資格すら無い。
今まで、困った事があると僕はいつでも泣いていた。
でも、今は泣いてもどうにもならない。
いつしか、雨が降って来ていた。
とても冷たい雨だった。
冷え切った僕は、強い眠気に襲われる。
一瞬、悪夢に引きずり込まれそうな恐怖を感じたが、
それでも、今は、
ただ、眠りたかった。
ここが、どこかもわからないのに・・・
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