忍者ブログ エゴイスト13 てすと中MOON-NIGHT&LOVERS-KISS
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二人を乗せた黒塗りの高級外車・・・

他を威圧するようなその大きなボディを、ぐいぐいと加速させ、夜の流れの中に滑り込んで行く。

 

 


驚くほど広い後部座席の、大きくゆったりとしたシートに、ぽつんと一人で座っている汀。

もちろんこんな高級車に乗ったのは初めてだった。

広すぎて何だか落ち着かない。

 

 

濃いスモークフィルムが貼られたウインド・・・

外からは真っ黒で中が全然見えないというのに、

中からは意外と外の景色が見える事が、とても不思議に感じてしまう。

 

 

そして、ぼんやりと外を眺めながら、これから再会する和志に、どう説明したものか考えてみる。

 


全てを話そうと、決心だけはしてみたものの、

何とも言えぬ不安が、しこりの様に汀の胸に詰まる。

 

 

 

ハンドルを握る藤堂は、そんな汀をミラーでちらちら見ていた。

 

 

 

「汀さん、何か考え事ですか?」

 

 

 

どうやら藤堂は、車の中に漂う沈黙に耐えられなかったようだ。

 

 

 

「えっ?・・・あっ・・・ごめんなさい、ちょっとぼんやりしてました。」

 

 


我に返ったように、慌てて答える汀・・・

それに対し藤堂の言ったのは、意外な台詞だった。

 

 

 

「さっきは・・・悪かったな・・・盗み聞きなんて言って・・・」

 

 

ぼそりと・・・聞こえるか聞こえないような小さな声。

 

 

 

「えっ?・・・そんな・・・僕が・・・誤解を招くような事をしたから・・・」

 

 


困ったように、汀が言うと藤堂は少しだけ笑いをにじませた声で言った。

 

 

 

「なあ、あんたって・・・兄弟とかいるのか?」

「いや・・・僕は・・・身寄りがないんです・・・」

 

 

 

汀の声は、少しだけ沈んだものとなる。

 

 

 

「あ・・・悪ぃ・・・まずい事聞いちゃったな・・・」

 

 

 


実際には、汀の両親は居るには居た。

しかし、彼がまだ幼い頃に離婚した両親は、それぞれに再婚し、新たな子供を作り、

やがて父も母も、汀をかえりみる事なく、連絡さえ途絶えがちになっていた。

 

 

 

 

「実は・・・だいぶ歳が離れているんだけど・・・俺には、弟がいるんだ・・・」

 

 

 

藤堂が、照れ臭そうに語りだす。

 

 

 

「今年でもう6歳になってるんだ・・・随分と大きくなってるだろうな・・・」

「一緒に暮らしてはいないんですか?」

「ああ・・・ちょっと事情があってな・・・まだ一緒には暮らせないんだ・・・

 けど・・・きっと・・・幸せに育ってると思う。」

 

 

 


藤堂は、弟の事をどれほど大事に、そして可愛く想っているのか、一生懸命、汀に説明した。

 

 

 

 

「羨ましいです・・・僕も・・・兄弟がいたら、どんなに励みになったか・・・」

 

 

 


汀は、心の底から、羨ましいと思っていた。

いつも、孤独だけはすぐ側にあり、それから逃げるように人の温もりを追い求めてきた。

 

 

 

兄弟・・・

せめて兄が居たら・・・姉が居たらと、今までに何度思った事だろう。

 

 

もし、血の繋がった兄弟が居たのなら・・・

人恋しく、常に愛に飢えていた僕の人生は、違ったモノになっていたのかもしれない。

 

 

 


再び黙り込んでしまった汀に、藤堂は明るく声を掛けた。

 

 

 

「俺・・・組長が、何の縁も無い人を助けをするの・・・初めて見たよ。

 だから組長も・・・あんなムズカシイ顔してても・・・汀さんの事を気に入っているんだぜ・・・」

「え~・・・そうなんですか?」

「こっちに来た時には、また寄りなよ・・・きっと組長も喜ぶんじゃないかな・・・

 汀さんに身寄りが無いんなら、俺が兄弟になってやるよ・・・」

 


「きょ・・・兄弟って・・・あの・・・盃を受けろって事?」

「ハッハッハッ・・・汀さんみたいなヤクザ・・・要らないよ・・・」

「だって・・・」

「兄弟みたいな付き合いって事さっ!・・・ハッハッハッ・・・それより・・・汀さんって、何歳?」

 

 

 


二人は、互いの歳を教え合い、驚いた事に藤堂の方が年下だったことが判明する。

 

 

 

「あちゃ~・・・やっぱり俺が一番下っ端かよ~・・・」

「藤堂さん、兄貴って呼んでくれるの?・・・フフフッ・・・」

「勘弁してくれよ~」

 

 

 

 

やがて・・・車は和志の家の近所までやって来ていた。

しかし、この辺りの土地勘の無い藤堂には、どの路地を入ればいいのか分からない。

 

 


「汀さん・・・家はどの辺りです?・・・もう近くまで来てるはずなんだけど・・・」

「ああ、ここを真っ直ぐに行ったら駅があるんで、そこで結構です・・・」

「いや・・・組長に家まで送れと言われているから・・・」

「でも・・・駅で人と待ち合わせしてるんで・・・」

 

 


藤堂は、少しの間考えていたが、やがて仕方が無いといった風に溜息をついた。

 

 


「じゃあしょうが無いな・・・もし俺が組長に怒られたら、汀さんのせいだぜ・・・」

 

 

 


そして・・・

希望通り、駅の前で降ろしてもらった汀。

 

 

真っ黒のウインドゥガラスを少し開け、藤堂は軽く手をあげ、短くクラクションを鳴らした。

方向転換して走り去る、黒ずくめのメルツェデス・ベンツを、汀は手を振って見送った。

 

 

 

車が見えなくなったころ・・・

汀は、急に心細くなっている自分に戸惑っていた。

もう引き返す事は出来ない。

藤堂は、ああ言っていたが・・・今更、加賀見さんの所へ戻る事も出来ない。

 

 

 


和志が全てを受け入れてくれなかった時は・・・

もう帰る所など無い・・・

 

 


汀は、次第に膨れ上がる不安を胸に、駅に向かって足早に歩き出す。

久しぶりに触れる外の空気・・・

冷たい風が更に不安をあおる・・・

 

 

 


和志・・・

全てを話すよ。

君にだけは・・・もう隠し事はしない。

だから・・・

虫のいい話だと軽蔑されるだろうけど・・・

出来るならもう一度、僕を受け止めて欲しい・・・

 

 


お願いだ・・・

 

 


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素敵サイトさま、1件。1月31日。じゅん創作、運命は、奪い与える。本編、番外。全掲載完了。
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