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信じていた
今度こそ絶対
大丈夫だって
なのに・・・どうして・・・
また・・・
『亜樹君っ・・・これからは私、毎日お弁当作るから・・・だから一緒に食べようね。』
そう言ってはにかむように笑っていた彼女。
そう・・・あれは付き合って間もない頃・・・
『出きるだけ一緒に居たいから・・・』
そんな彼女の、屈託の無い笑顔が、僕は好きだった。
あれから三ヶ月・・・
ニ、三日前から、彼女の様子がおかしいとは気付いてた。
そして今日の昼休み・・・
授業の終わりを告げるチャイムと共に、僕はいつものように彼女を迎えに行った。
「亜樹君、ごめんね・・・私・・・」
教室の戸口まで来た彼女の顔は、真っ青で・・・
その潤んだ瞳は、一度も僕の目を見ようとしない。
必死で先を言おうとする彼女・・・
僕は、それ以上聞かなくても彼女の言う言葉に想像がついていた。
もういい・・・
聞きたくない。
今度こそ大丈夫だって・・・
信じていたのに・・・
「・・・私・・・別れたいの・・・」
ほらやっぱり・・・
理由なんて、聞かなくてもわかっている。
わかっているのに僕の唇は・・・
「どうして・・・?」
と、動いていた。
「遥生(はるき)君が・・・」
涙ぐみながら、続けようとした言葉を、僕は冷たくさえぎった。
「もういい・・・」
わかっている・・・
いつも同じさ・・・
(遥生君が好きなの・・・)
もうそんな言葉は聞きたくなかった。
この三ヶ月、今まで付き合った中では一番長続きしていただけに、
もしかしたら、このまま行けるのではないか、と淡い期待をしていた亜樹。
しかし結果は・・・
こんな時、不思議と涙が出ないものなのだろうか。
もはや亜樹は、泣く事さえ忘れ、諦めたように淋しく笑った。
「・・・亜樹君・・・」
「もういい・・・」
すがりつくように何かを言おうとする彼女を、亜樹は拒否する・・・
「そうじゃ無いのっ・・・お願い・・・話を聞いて・・・」
「何も聞きたくない・・・」
必死で亜樹を引き止め、何か言おうとする彼女。
しかし、何をどう言えばいいのか分からない。
たちまち彼女の瞳から、大粒の涙がぽろぽろと零れ出す。
亜樹はくるりと背を向け、そんな彼女を置き去りに、歩き出す。
「亜樹君っ・・・」
背中に彼女の声・・・
震えている・・・
ふと立ち止まる・・・
振り向きはしない。
亜樹は、静かな声で・・・
しかし突き放すように答える。
「もう・・・顔も見たくない・・・」
吐き棄てた言葉を残し、早足で歩き出す亜樹。
廊下に崩れ落ち、去って行く亜樹に最後の言葉を投げ掛ける彼女。
「亜樹君っ・・・本当に・・・好きだったの・・・嘘じゃないの・・・今でも・・・」
言葉の末尾が、涙でかすれ・・・
後はただ・・・泣きじゃくる。
廊下でのちょっとした騒ぎに、彼女の級友達が駆け着ける。
「どうしたの?」
「何があったの?」
「大丈夫?」
去っていく亜樹に、彼女の友人の言葉がぶつけられる。
「何を言ったのよ!!」
「最低!!女の子泣かすなんて・・・」
亜樹は振り向きも、立ち止まりもせずに、逃げるようにその場を去った。
なんで・・・
なんで・・・
こんな事言われなきゃならないんだ・・・
振られたのはこっちなんだ・・・
優しい慰めの言葉でも掛けろとでもいうのか?
もうたくさんだ・・・
一人になりたい・・・
静かな場所を求め、亜樹の足は勝手に屋上へと向かっていた。
一段、二段、三段・・・
屋上へと続く階段を、上りながら無意識に数えている。
沈み込んで行く心を、なんとか落ち着けようとしているのかもしれない。
耳障りな音を立て、屋上の重い扉を開く。
誰も居なかったが、それでも人が来にくい、出入り口とは反対側へ回る。
ぼんやりとフェンスの金網を両手で掴み、一人たたずむ亜樹。
寒いや・・・
冷たい風が亜樹の髪を揺らす。
見上げると、晩秋の空はどんよりと曇り、コンクリート色の空がどこまでも続いている。
あ・・・
涙だ。
今ごろ涙が出て来るなんて・・・
亜樹は、一人苦笑すると、ずるずると座り込む。
そしてそのまま、膝に顔を埋めた。
泣くな・・・
わかっていた事じゃないか・・・
彼女もいつか・・・
遥生を好きになるに違いないって・・・
いつも・・・
いつもそうだ。
誰も僕を見てくれない。
ほとんどの人達が・・・
いや・・・今まで僕の事を好きだと言った子達でさえ・・・
遥生に会わせ、言葉を交わすうち・・・
やがて誰もが、遥生を好きになる。
僕に向けられていた眼差しは、僕の中に遥生を探し・・・
それが無いと分かると、遥生の元へ去って行く。
いつも・・・そう・・・
同じ顔・・・
同じ両親・・・
同じ生年月日・・・
全く同じ遺伝子を持つ二人なのに・・・
どうして、誰も僕を見てくれないんだろう・・・
優しくて
朗らかで
何でも上手にこなす遥生・・・
無口で
おとなしく
目立つ事が嫌いな僕・・・
遥生は光・・・
僕は影・・・
そう・・・
誰だって遥生の事を好きになるのは当たり前なんだ。
だって遥生は学園一の人気者だし
生徒会長だってやってるし・・・
とにかく・・・
とにかく、遥生は完璧だもの・・・
こんな僕と違って・・・
でも・・・
きっと・・・
こんな僕でも・・・遥生よりも好きだ、という人が現れる・・・
そう信じてた。
だからある意味、僕の方がこうなるように仕向けていたのかもしれない。
彼女が出来るたびに、僕は遥生に紹介していた。
そして、試していたんだ・・・
優しい言葉一つ言わない僕と・・・
まばゆく輝く遥生・・・
同じ顔をした光と影。
両方ともよく知った後で・・・
あなたはどっちを選ぶの?
そして結果はいつも同じ。
今さら泣くな・・・
もう・・・慣れてる事じゃないか。
どうして・・・
どうしてこんなに・・・涙が・・・
この三ヶ月・・・
もしかしたら今度こそは・・・と期待してたのだろう。
彼女だけは、僕だけを見ていてくれると・・・
ギィーと扉の軋む音・・・
誰か来たみたい。
こっちに来ないで・・・
膝に顔を埋めたまま、亜樹は動かない。
すぐ側まで人の気配が近づいて来る・・・
「亜樹・・・」
膝を抱え、小さくうつむく僕の耳に、慣れ親しんだ声が聞こえてくる。
いつもと変わらぬ、その優しい声に、余計に涙が出て来てしまう。
「遥生・・・」
やっぱり来てくれたんだね・・・遥生・・・
いつもこんな事の繰り返し。
僕から彼女を奪った張本人なのに・・・
遥生を憎めないのは・・・なぜ?
だって・・・別に遥生が悪いわけじゃない。
心変わりした彼女が・・・いや・・・彼女を繋ぎ止められなかった僕が悪いんだ・・・
そう・・・わかっている。
何があっても遥生を憎めるわけが無い。
僕は遥生の一部でさえあり、遥生は僕の一部・・・言い方を変えれば分身だと思っている。
そう・・・僕と遥生はもともと二人でひとつ。
ただ・・・どういうわけか・・・
輝くような才能と誰からも好かれる性格は遥生に・・・
すべてに無能で、暗い性格は僕に・・・
それを不公平だとは思わない。
遥生は僕のすばらしい一部であり、僕の誇りだ。
自分の中の誇れる部分を憎むなんて・・・想像すら出来ない。
「はるきぃ・・・また・・・駄目だったよ・・・」
そう言いながら泣き続ける僕を、遥生はそっと抱き寄せる。
その腕を拒否することは僕には出来ない。
だって、そうしたら僕は一人になる。
誰も、僕の事を見てくれないんだから・・・
両親だって・・・
先生だって・・・
遥生だけが、僕を見てくれる。
僕だけを見てくれる。
いつも・・・遥生は優しい・・・
初めの頃は、酷い言葉を遥生に投げつけもした。
でも・・・遥生は何も言い返さなかった。
彼は、何も悪く無いのに・・・
そんな時、遥生は、少し悲しい顔をするだけだ。
どんなに責めても、なじっても・・・
いつも・・・悲しそうに僕を見ていてくれる。
いつも・・・離れずにいてくれる。
本当に側にいて欲しい時・・・
いつも側にいてくれる・・・
遥生・・・
大切な・・・僕の分身・・・
上着も着ずに、薄いシャツ一枚で飛び出した亜樹を、遥生は優しく抱きしめる。
「冷え切ってるよ・・・亜樹・・・」
「今度は・・・しばらく・・・立ち直れないよ・・・遥生・・・」
涙で途切れがちな、小さな声・・・
可哀想な亜樹・・・
こんなにも傷ついて・・・
そんな亜樹の耳元で・・・遥生はささやく・・・
「亜樹には、僕がいるよ。」
ピクリと僅かに震える亜樹・・・
そして、より強く遥生の胸にすがり付いてくる。
「僕は、亜樹さえいればいい・・・亜樹もそうだよね・・・」
僅かな間のあと、胸の中で小さくうなずく亜樹。
「じゃあ・・・もう泣かないで・・・僕はずっと・・・亜樹の側にいるから・・・」
「本当に?・・・遥生・・・」
「ああ・・・ほんとだよ・・・亜樹・・・」
遥生は、繰り返しささやく・・・
優しく亜樹の背中を撫でながら・・・
遥生がふと目を上げると、扉の方でこちらを見ているに人影に気付く。
亜樹の彼女だ・・・
いや彼女だったと言った方がいいかもしれない。
たった今別れたばかりなのだから・・・
遥生は、何も気付かない亜樹を抱きながら、その背中越しに彼女を凝視する。
両手で口元を覆い、怖いモノでも見たかの様に目を見開いて立ちすくむ彼女。
亜樹は何も知らない・・・
知るはずも無い・・・
遥生と彼女が、亜樹の知らない所で、密かに会っていた事など・・・
話は、亜樹が振られたこの日より、2日程さかのぼる・・・
テニス部に所属している彼女は、放課後練習が終わったあと、生徒会室に遥生を訪ねた。
「遥生くーん・・・遅くなってゴメン・・・」
すでにかなり日が傾き、夕日が部屋の奥までさしていた。
「やあ、急に呼び出して、こっちこそゴメンね・・・」
遥生は、一人で何かの原稿を書きながら待っていたようだ。
「遥生君・・・話があるって・・・何?・・・」
走って来たのだろう。
はあはあ言いながら、彼女が尋ねる。
「いやあ・・・ちょっと、亜樹の事なんだけど・・・」
「亜樹君がどうかしたの?」
「まあ立ち話も何だから座って・・・今、飲み物を出すから・・・」
言われるまま、古ぼけたソファに座った彼女・・・
席を立った遥生は、程なくジュースを入れたグラスを二つ持って来る。
「ありがとう・・・部活のあとだから喉渇いちゃって・・・」
「けっこうイケルだろ?・・・最近ハマッてるんだ・・・このオレンジジュース・・・」
「う・・・うん・・・冷えてておいしい・・・で・・・亜樹君の事・・・何かあったの?」
彼女は気になって仕方ないといった風にそわそわしている。
「・・・単刀直入に言って・・・亜樹の事、どう思ってるのかなって・・・気になって・・・」
拍子抜けするような質問に、彼女はコロコロと笑った。
「好きに決まってるじゃない・・・変な遥生君!」
「ははは・・・そうだよね。ごめんね、妙な事聞いちゃって・・・
僕はただ、亜樹の事が心配なだけさ。
今まで亜樹が付き合った子達は、みんなうまくいかなかったから・・・
それに・・・その子達って、何故だか僕に惹かれるみたいで・・・
その・・・ちょっと責任感じてたりとか・・・」
「ふーん・・・そんな事があったんだ・・・
で・・・私もそうなるんじゃないかと思ったの?」
「んー・・・少しね。亜樹が傷つく前に、君の気持ちを確認したかったってのもあるかもね。」
「フフフ・・・心配症なのね。でも私は大丈夫・・・私は亜樹君が好き・・・
確かに遥生君は、しっかりしてるし、何でも出来るし、立派だと思う。
遥生君の方がモテて当たり前だって・・・」
「じゃあ、どうして君は、亜樹の事が好きなんだい?」
「純粋で・・・綺麗な心・・・かな・・・ちょっと照れちゃうけど・・・
ガラス細工のように繊細で、壊れやすい、儚い美しさ・・・
私が守ってあげたいって・・・そんな感じが亜樹君はするの・・・
おかしいかなぁ・・・遥生君・・・」
「おかしくなんか無いさ・・・僕もそう思う・・・」
「でしょ?・・・遥生君の影に隠れちゃって、みんな亜樹君の良さが分からないのね・・・
だから・・・私、ひとりぐらいは・・・亜紀君を好きでいてもいいんじゃない?」
「・・・・」
「・・・私って・・・変?・・・」
「いや・・・亜樹の事を、そこまで解ってくれてありがとう・・・僕も、凄くうれしい・・・」
「もしかして話ってそれだけ?・・・じゃあ・・・もう遅いから私そろそろ帰るわね・・・」
彼女は、小さなアクビを噛み殺しながら、自分のバッグを手に持った。
「眠いの?」
「うん・・・クラブで疲れちゃったのかな・・・何か・・・急に眠く・・・」
「最後にもう一回、確認したいんだけど・・・」
「・・・なあに?・・・」
「亜樹とは絶対に別れないんだね?」
「そうよ・・・」
彼女は、余程眠いのか、しきりに目を擦る。
「何があっても?・・・」
「当たり前・・・じゃない・・・」
遥生は、しばらく黙っていたが、やがて独り言のようにつぶやいた。
「そうか・・・残念だな・・・」
「ど・・・どういう・・・こと?・・・」
彼女は、驚いて立ち上がろうとするが、思うように力が入らない。
身体が異常に重く、目が霞みはじめて、彼女はやっと自分に起きている異変に気が付く。
「何を・・・したの・・・」
「さっき飲んだジュースに・・・ちょっとね・・・」
「どう・・・して・・・」
急速に眠りに落ちて行く中で、彼女は遥生の声を聞いた・・・
「君が悪いんだ・・・亜樹と別れないから・・・亜樹は僕だけのモノだ・・・」
激痛で目が醒める・・・
初めに見えたのは、遥生の顔・・・
息が掛かるほど近く・・・
全裸に剥かれた彼女の上に圧し掛かっている・・・
下半身が割り裂かれるような痛みで、彼女は自分が何をされているのか悟る。
「嫌っ・・・痛い・・・」
身体は痺れたように動かず・・・
声にならない声で小さく叫ぶのが精一杯だった。
「やっと目が覚めたか・・・
薬の量を加減したつもりだったんだが・・・」
大きく広げられた白く細い下肢・・・
人目に触れた事さえなかったその中心に、遥生は更に深く、自らを打ち込む。
「痛っ・・・やっ・・・」
「ほら・・・全部入ったよ・・・やっぱりバージンだったね・・・
まあ、亜樹が手を出すとは思って無かったけどね。」
抵抗する力さえ戻らず・・・
耐え切れぬ痛みと屈辱に対して、人形の様になす術も無い彼女。
「亜樹のが欲しかったんだろ?・・・残念だったな・・・
でもどうせ双子なんだ・・・亜樹だと思えば少しは気も楽になるだろ・・・」
遥生はそう言いながら、彼女の大きく広げた両脚を抱え上げ、乱暴に腰を使い出す。
「ひっ・・・」
再び小さな悲鳴を洩らす彼女。
が、そんな事はお構い無しに、激しく彼女を揺さぶり、更に奥深く陵辱し続ける。
二人の間に、愛など存在するはずも無く、優しさのかけらも無い行為・・・
まだ成熟しきってない胸に爪を立て・・・
激しく肉を打つ音と共に、ソファが軋む。
甘い夢に想い描いていた・・・初めての行為が・・・
悪夢のような・・・こんな形で降りかかるとは・・・
彼女は・・・まだ、あどけなさの残る顔を横に背け、必死に耐える。
亜樹君・・・
整った眉を歪め・・・
唇を噛み・・・
ただ嵐の過ぎ去るのをひたすら待ち続ける。
亜樹君・・・
ゴメンね・・・
亜樹君・・・
涙があふれる瞳・・・
何処か遠くを見ているようだ・・・
この時・・・彼女の瞳はいったい何を映していたのだろうか。
それは誰もわからない・・・
彼女自身・・・何も見ようとしていなかったのかもしれない。
悪夢のような行為が終わっても、彼女はしばらく呆然と涙を流していた。
ひとり身支度を整えた遥生は、そんな彼女に剥ぎ取った制服を放り投げる。
抱きかかえた制服で身体を隠し、まだまだ重く軋む身体を、どうにか起こす彼女。
「酷い・・・どうして・・・こんな・・・」
涙ながらに訴える・・・
「亜樹と別れろ・・・あいつは僕のモノだ・・・」
「わからない・・・何故っ?・・・」
「亜樹は誰にも渡さない・・・僕だけのモノだ・・・」
「あなた・・・亜樹君の事・・・好きなの?・・・おかしいわっ!・・・狂ってる・・・」
「好きなんて安っぽい言葉を使うなっ!・・・君に何がわかるって言うんだっ!
僕と亜樹は・・・産まれる前から二人でひとつ・・・
亜樹は僕の一部だし・・・僕は亜樹の一部なんだ・・・」
「・・・・」
突然声を荒げた遥生に、彼女は怯えたように黙り込む。
「だけど、どういうわけか・・・もしかしたら神の悪戯なのか・・・
外見は同じに見えても、中身がまるで違っていた。
純粋で、無垢で、美しい部分は亜樹に・・・
世渡りばかり上手く、卑怯で汚れた部分は僕に・・・
でも・・・それでもいい・・・互いにひとつで居られるのなら・・・
純粋な亜樹が、僕の一部だと感じられるのなら・・・」
そこまで言うと、遥生は彼女を射竦めるように見た。
「君に聞こう・・・僕の中の最も綺麗な一部・・・そんな亜樹が・・・
みすみす君の手に渡るのを、僕が黙って見ていると思うか?」
「狂ってる・・・」
「まあ、君に理解出来るわけがない。とにかく亜樹とは別れてもらう。」
「いやよ・・・それでも私・・・亜樹君が好き・・・」
「もし別れないって言うなら、僕は平気でもっと酷い事をするだろう・・・」
「この事を亜樹君に言うからっ!・・・きっとわかってくれるわ!」
遥生は、フフッと不敵に笑った。
「君は意外と馬鹿だな・・・君の言う事と、僕の言う事・・・
亜樹がどっちを信用すると思ってるの?・・・まあ一晩、よく考えるんだな・・・」
翌朝・・・
皆が登校する時間帯・・・
まだ軋む身体を、誰にも悟られないように、気を付けて歩く彼女。
彼女は決心していた。
すべてを亜樹君に話そうと・・・
私の言う事を信じてくれるのか・・・それは亜樹君次第だけど・・・
今はただ・・・私こそが亜樹君を信じるしかない。
「おはようっ!・・・」
校門を入ってすぐに、亜樹と同じ顔をした男が声を掛けてくる。
「遥生君・・・」
いつも通りの明るい笑顔で、彼女に接する遥生・・・
昨日、あんな事があったなんて、全く思わせないくらい、爽やかな表情。
どうしてそんな顔で私の前に出て来れるの?
彼女は改めてこの男が心底恐ろしく思えた。
「やあ・・・昨日はお疲れでした。悪いけど今日も放課後に生徒会室に寄ってくれる?」
全く表情を崩さずに語る遥生・・・
そんな彼に寒気さえ感じながら、引き攣った顔で小声で答える。
「何言ってるの?・・・二度とあんたなんかの言い成りになるもんですか・・・」
クスッと可笑しそうに遥生は笑う。
「そう言うと思ったよ・・・これ、昨日の分の資料だけど目を通しといてくれる?
人目の無い所で見てね・・・きっと今日も来る気になると思うよ・・・」
途中からは、彼女の耳元で囁くように言った遥生。
そして、やや大きめの封筒を彼女に渡す。
「何?・・・」
「見ればわかるよ・・・」
そう言うと遥生は、早足で行ってしまった。
放課後・・・生徒会室・・・
彼女は来た。
その顔は、不安と恐怖に青ざめている。
「何よ・・・あれ・・・どうして?・・・」
「見たんだね・・・良く撮れてただろ? 気に入ってくれたかな・・・」
「酷い・・・」
「まだまだ、いっぱいあるんだ。ほら・・・」
遥生はバッグからそれを取り出し、バサッと彼女の足元に投げ付けた。
それは・・・プリンターで打ち出した、あられもない彼女の写真・・・
全裸にされ・・・全てさらけ出された秘部に至るまで・・・鮮明に写っている。
その枚数はかなりのもので、無防備に脚を開いたモノやら、局部のアップまで・・・
いろんなポーズをとらされ、彼女の裸体を余す所なく捕らえていた。
彼女は、足元に散らばったそれらを、泣きながら掻き集める。
「デジカメって便利だね。現像に出さなくてもいいから、どんな写真でも撮れるし、
綺麗に大きく印刷することも出来る・・・」
写真を抱え、うずくまる彼女・・・
それを冷ややかな表情で見下ろす遥生。
「昨日、君に眠ってもらったのは、抱くためなんかじゃ無い・・・
写真を撮るためさ・・・撮り終わってもなかなか君が目を覚まさないから
暇つぶしに抱いてみただけ・・・」
これ以上ない屈辱的な台詞に、泣き崩れる彼女。
「だから言っただろ・・・別れないなら、僕は平気でもっと酷い事をするって・・・
今度はどうする? この写真を学校中にばら撒こうか?
それともネット上で世界中に公開しようか?」
「どうして?・・・こんな事して何が面白いの?」
涙混じりに彼女が吐く台詞に、遥生はしばらく言葉を捜していた。
「僕だって辛いさ・・・でも亜樹を取り戻すためなら、悪魔に魂を売ってもかまわない・・・」
不気味なほど赤い夕日が低く差し込み、逆光に黒く浮き上がった遥生の姿・・・
暗くて表情はわからないのに、その目だけは異様に光っている。
やりかねない・・・
この人なら・・・
写真をばら撒くぐらいの事は、平気でするだろう。
目的のためなら、手段を選ばない・・・
人ひとりの人生を崩壊させるのに、罪の意識など感じないに違いない。
底知れぬ恐怖・・・
捻じ伏せられる屈辱・・・
もう・・・この人とだけは関わりたく無い・・・
彼女が屈服したのは・・・この後すぐだった。
「もし・・・別れたら・・・写真・・・返してくれるの?・・・」
そして・・・つい先ほど・・・
亜樹と彼女は、遥生のもくろみ通り決別した。
低く垂れ込めた雲は、耐え切れずに雨を降らせ始める。
屋上の扉の側で、凍りついたように動けない彼女・・・
そして遥生は、亜樹を抱き締めたまま彼女の目を見ていた。
三人が、三様の想いを抱き、音も無く降る秋雨に身を任せる。
彼女に、見せ付けるように亜樹を抱きしめている遥生。
その口元は微かに笑っている。
今までの亜樹の彼女と違って・・・
君は良く頑張ったよ・・・
僕に犯されて、ぼろぼろになっても、最後まで君は気高かった・・・
亜樹が好き・・・
迷い無く、そう言いきる瞳・・・
その真っ直ぐな想い・・・
僕は、君に怯えていたのかもしれない。
亜樹を取られる・・・
そう思ったのは事実。
だから、なりふり構わず、汚い事もした。
でも・・・後悔なんてしない。
もともと僕は、汚れた片割れ・・・
亜樹が・・・綺麗な片割れさえ僕の手の中にあればそれでいい。
そう・・・
君は負けたんだ・・・
去るがいい・・・
亜樹の前から・・・
ありがとう・・・
亜樹を本気で好きになってくれて・・・
亜樹に代わって感謝するし、僕は君に敬意さえ持っているよ。
僕を・・・あんな事をさせるまで追い詰めた・・・君を・・・
たとえ亜樹が君の事を忘れてしまっても、僕は君の事を忘れない。
もう・・・
ゲームは終りだ・・・
遥生は、亜樹の顔をそっと持ち上げる。
亜樹の髪に・・・頬に・・・雨がしたたり、流した涙とにじみ合う。
その雫を唇でぬぐう遥生。
「亜樹・・・泣かないで・・・」
次々に生まれる雫を、遥生の唇は拭い去る。
その唇は、自然と亜樹の唇と重なり・・・
やがては・・・
深い口付けに・・・
その時・・・
遥生の視界には、彼女が青ざめたまま駆け去って行くのが映っていた。
(GAME OVER)
そのまま・・・二度と亜樹の前に現れるな・・・
取り戻した・・・
この腕の中に・・・
亜樹・・・
僕の亜樹・・・
遥生は、美しい自分の分身を、あらためて抱きしめる。
強く・・・
強く・・・
産まれる前から一緒だった。
大切に・・・
大切にしている・・・ただ一人の愛しい人。
他の人間なんていらない。
他の人間なんてどうでもいい。
亜樹さえいれば・・・
他には何も・・・欲しくない。
そう・・・
亜樹が僕から逃げ出したがっている事なんて知っている。
だから、少し息抜きをさせてあげただけ・・・
これからも・・・たまには自由にしてあげる。
けれど、亜樹を手離すわけじゃない。
二人が離れ離れになれるわけ・・・無い・・・
それでも自由を与えるのは・・・
結局、僕しかいないんだって事を、亜樹にわからせてあげるため・・・
そうだ・・・傷ついてぼろぼろにおなり。
深く深く傷ついた心を・・・僕の愛で埋めてあげる。
深く深く傷ついた分だけ
深く深く愛してあげる
僕の愛で・・・君の心の傷を塞いで見せる。
そうして・・・
やがては・・・
君は僕から離れられなくなる。
狂ってなんかいない
これが僕達の
愛・・・
END