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静かな音楽が流れ、海をイメージした店「Aqua」で・・・・
その日、彼と出会ったのは偶然だった。
少し遅れると友人から連絡が入り、先に本庄は飲み始めていた。
一番奥のボックス席は、入り口からは見えないが、ボックス席からは、
入り口がよく見えた。
騒音を嫌う、本庄 正也 にとって「Aqua」は昔から時々、飲みに来る店だった。
カラ~ンと入り口の扉が開き、自然と岬の視線はその音を追うかのよ
うに入り口を見る。
一瞬、見間違いかと思った。
入ってきたのは、友人ではなくて・・・・
本庄が最近、よく思い浮かべる木城 連だった。
彼には、連れがいた。
すらりと背が高く、濃紺の三つ揃えのスーツを着ていた。
服装はまるで、俺みたいだな・・・
顔は・・・男前だな・・・女受けしそうな顔だ。
彼は、微笑んでいた。
連れと話しながら、笑顔で・・・笑っていた。
俺は、木城の笑顔を、俺はあまり見た事が無い。
いや、自分に向けられる笑顔は・・・か・・・
ーーーそいつには、笑いかけるのか・・・
胸の奥が、ズキッ・・・とした。
何故だか二人から目が離せなかった。
いや、彼から・・・・目を離したくなかったのだ。
本庄は自嘲の笑みを浮かべ、酒を飲みほした。
「木城、お前またやせたか?」
肩を抱き寄せようとする、元同僚の手からさりげなく離れながら・・・
連は、困った事になったなと苦笑を浮かべた。
どうして、こんな事になったのだろう?
平気だと思ったのだ。
会っても平気だと・・・
だが、この目の前の男は昔と何も変わっていなかった。
逃げ出したい衝動に駆られる。
思い返せば・・・
あの電話にさえ、出なければよかった。
明日は、休みだからと、すっかり気が緩んでいた連は電話のベルに
何も考えずに電話に出た。
「もしもし、木城です。」
『木城か・・・?』
「・・・」
しまったと、思った。
この男は、嫌いだった。
苦手だった。
この男の舐めるような視線が嫌だった。
「相良、何の用だ?」
『以前に、お前がプログラムを組んだ、「あれ」覚えてるか?』
「ああ・・・」
思い出す、転職する前・・・・
あの会社の開発部で取り組んでいた、好きな仕事。
新しい、プログラムが出来上がり、嬉しくてつい、相良に見せた。
相良は・・・・
ガターンと椅子の倒れる音、殴られた頬の痛み・・・・
屈辱の・・・・記憶。
もう、大丈夫だと思っていた。
昔の事だと・・・・
カウンターに座った、相良の隣に座る。
「で?あれがどうしたって言うんだ?」
連は、問い掛ける。
さっさと、問題に片をつけてしまいたかった。
相良と一緒の空気を吸っていたくなかった。
煙草に火をつけ、ぼんやりと紫煙を見つめる。
「木城・・・戻ってこないか?」
相良が何を言ったのか、一瞬理解できなかった。
「相良・・・一体何を・・・言ってるんだ?」
連には、理解できない。
相良の感情を・・・・
相良は、連を一目見た時から好きだった。
同じ男なのに、「何故?」
何回も自問自答を繰り返した。
そして・・・・あの夜
いつも、相良を避けている連が声をかけてきた。
「相良、見てくれないか?新しいプログラムなんだ」
得意そうに、嬉しそうに、笑顔で言った。
嬉しかった・・・笑顔が見れて・・・
でも、思ったのだ。
こいつは、
この笑顔を・・・他の誰かにもに見せるんだろうか?
そう、思ったら・・・・・たまらなかった。
気が付けば、押し倒していた。
激しく抵抗され・・・かあっとなり殴っていた。
ワイシャツを剥ぎ取り・・・・
あの時・・・もし・・・
激しい音に驚いた警備員が来なかったら・・・
後悔した、どうしてあんな事をしてしまったのかと・・・
だから、会いたかった。
ずっと・・・ずっと・・・
社長の親戚だった相良は、「頭を冷やせと」海外へ転勤させられた。
被害者だった、木城は開発部を去り、子会社へと回された。
「本社の開発部」から「子会社の営業」それは、体のいい厄介払いにすぎない。
誰もが、木城は会社を辞めるだろうと思った。
だが、彼は辞めなかった。
それどころか、瞬く間に営業でトップを取るようになった。
会社を辞めていないと、その噂を聞き、相良は嬉しくなった。
「許してもらえる」そう信じ込んだ。
「木城・・・戻ってきてくれないか?」
頭を下げる相良を見ても、嫌悪感しか沸いてこない。
何を今更?
困惑し、相良から視線を外して、ぼんやりと店の中を眺める。
その視界の端に、見覚えのある顔があった。
「本庄さん?」
視線が合う。
本庄だ・・・
また、この人に嫌なところを見られたなと思う。
「木城・・・?」
相良は、連の視線を追い本庄に気がつく。
無意識に眉間に皺を寄せて、本庄も相良を見ていた。
どっちが、ましだ?
連は考える。
ーーーー答えは簡単だ。
「本庄」だ。
何しろ・・・一応上司にあたるんだから、挨拶しないのはおかしいだろう。
連は、立ち上がり本庄の方に歩いていく。
前門のトラ、後門の狼だっけな?
彼が、近づいてくるのを俺は驚いて見ていた。
視線はあったが、プライベートだ。
きっと、話し掛けにも来ないだろうと
思っていたのだ。
ふと、連は思った。
本庄さんは、誰かと待ち合わせだろうか?
先に、気がついていたに違いないのに、声をかけて来なかったのは・・・
プライベートだからか?
迷惑かもしれないな・・・
だが、もう立ち上がってしまった。
後には引けない。
「本庄さん、一人ですか?」
笑顔で話し掛ける連に、本庄は違和感を覚えた。
笑顔の下に、一瞬怯えている子供の顔が見えた気がしたからだ。
「ああ・・・木城は?」
答えようとした連を、遮るように携帯が鳴った。
すぐに二人とも、自分の携帯を探る。
呼び出しの電話だったらいいのに・・・・連は思った。
「どうやら、本庄さんみたいですね・・・」
連は、あきらめた。
きっと、本庄は呼び出しを受けたのだろうと思った。
ーーーいやだな、一人で残されるのは・・・
背後に刺すような相良の視線を感じていた。
連は、ぼんやりと携帯に出る岬を眺めていた。
「はい、本庄です。」
どこか、いつもと違う様子の連を気にしながら本庄は通話ボタンを押した。
『倉田だ。今日はすまない。いけそうもない。』
「そうか、わかった。じゃあ、また今度。」
通話を終え携帯を、鞄に直す本庄に連は聞く。
「呼び出しですか?」
本庄は、苦笑した。
どうやら、俺は相当忙しいと思われているか、
プライベートなどないと思われているのか?
「いや、約束がキャンセルになったんだ。」
「へえ・・・」
無意識に、唇が綻んでいる事に連は気がつかない。
「それじゃあ、一緒に飲みませんか?」
そう、連に微笑みかけられながら言われた本庄は・・・
一瞬聞き間違いかと思い、聞き返す。
「俺とか?」
迷惑なんだろうか?
額に皺を寄せた本庄を見て、連は思ったが・・・
もう一度だけ聞いてみようと心に決め、繰り返す。
彼は、自身の声が知らないうちにすがりつくような口調になっている事には気がつかない。
「ご迷惑でなければ、一緒に飲みませんか?」
すがりつくような視線で聞かれたら、本庄に「否」とは言えはしない。
何かあったのか?
本庄は、連に聞きたかった。
その気持ちを抑えて、本庄は言葉を返す。
「木城が、迷惑じゃなければまぜてもらおう」
本庄の言葉を聞いた連は、無意識に口元を綻ばせていた。