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内科医、岡部久弥。

彼は、将来を期待されている、青年医師である。

学生時代の成績も優秀だった彼は、大学に残るように引き留めらた。
そして帝都大学付属病院に勤務して数年が経つ。

今では、院内で中堅クラスの医師として頭角を現わし、
また、講師として大学の教壇に立つことも月に何回かあった。

岡部の、色白で優しそうな童顔は、患者達の受けもよく、
学生達にもひそかな人気があった。

 

 


岡部は、悩んでいた。
手にしているのは、一通の招待状。

恩師にあたる真田重蔵の誕生パーティへの誘いだった。

「あの人も・・・出席するのだろうか・・・」

 

あの人とは・・・

岡部の同期の医師、田所 秀一の事だ。

田所 秀一は、岡部にとって特別な存在だ。
学生時代の岡部の成績は、確かに優秀だったが、一番ではなかった。
最も優秀だったのは、いつも田所だ。
岡部は、どんなに頑張っても二番だった。

 

あれは、インターンになったばかりの頃だった。

その頃の僕には、悪い癖があった。
担当している患者に対して、まるで家族のように思い入れてしまう・・・
思い入れが強すぎて、結局自分を傷つける。

担当の患者が亡くなった時などは、大変だった。
他の仕事が全く手に付かず、ひと気のない所でずっと泣いていた。

当然、僕の評価は、急降下・・・
他のスタッフ達の、冷たい視線が痛かった。


そんな僕を立ち直らせたのは、忘れもしない、田所の忠告だった。

「入れ込んでいた患者が亡くなったからって、いちいち泣くな。目障りだ。」

「君は、何も思わないのか?患者が亡くなっても・・・」

「いいか、久弥・・・私達は医者だ。人の命を預かる仕事だ。
そして私達の仕事には、人の死は付き物だ。」

「だからって・・・親しい患者さんが亡くなったら、僕は平気ではいられない・・・」

「だったら久弥・・・お前・・・医者をやめろ。お前に医者の資格はない。」

「なっ・・・」

「私達は、人の生死にかかわる判断をするんだ。
お前のように、一人の患者が死んだだけで泣きを入れてたら、次に待ってる患者はどうなる?
正確な判断、正確な処置・・・泣きながら出来るのか?」

「・・・・」

「私を冷たい奴だと思うか?
私は私なりに誰よりも患者の事を想っているつもりだ。
だがな・・・その気持ちは涙であらわすもんじゃない。行動でしめせ!
死んだ患者は、お前に泣いてもらおうなんて思ってやしないっ!
自分の力不足を反省しろっ!
泣いてる暇があったら、腕を磨けっ!」

「・・・・・」

「それが出来ないのなら・・・白衣を脱げ・・・
言いたい事はそれだけだ。」

僕は、何も言い返す事が出来なかった。
田所の言っている事が正しい・・・そう思った。

実際、この時の忠告が、僕を立ち直らせるきっかけになったのは、確かだ。
廊下を去ってゆく、田所の後ろ姿を今でも時々思い出す。


学生のころから岡部は、いつも田所の背中を追いかけていた。
彼にとって、田所という存在は目標であり、またあこがれであった。

届きそうで、届かない・・・
手をいっぱいに伸ばしても・・・
いつもその向こうで輝いていた・・・あの人

自分に厳しい姿勢・・・
誇り高い心・・・
使命感に燃える瞳・・・
未来を見つめる横顔・・・

好きだった・・・
大好きだった・・・

その感情は・・・「恋」

岡部自信、信じられぬ感情だった。
まさか同性を好きになるとは・・・

その気持ちに気付いたのは、二人の距離が離れてからだった。

岡部は、内科医の道を・・・
田所は、外科医の道を・・・

二人とも大学に残るように引き留められたが、田所は外の世界を選んだ。

その後、何かの集まりで2、3回見かける事があったが、
ゆっくり話をするような機会はなかった。

 


あの人に会いたい・・・
懐かしい声が聞きたい・・・

岡部は、先ほどの招待状を、まだ見つめていた。

「あの人が・・・田所が来るなら・・・」

岡部は、少ない可能性に期待して、「出席」のほうへ丸をつけた。

 

 

 


そして今夜・・・

岡部と田所の恩師、真田重蔵の還暦を祝う、バースディ パーティー。


岡部は、グラスを片手に適当に女達と会話をしていた。
どうせ、結婚相手でも探しに来ているのだろう。
まあ、このパーティ自体が誕生パーティを装った、恩師の孫娘の婿探しだがな・・・

「岡部さんは、開業されてるんですか?・・・」

「私ですか?・・・今は帝都大の付属病院に勤めてます。」

「すごーい・・・もしかしてエリートさんですか?」

「いえいえ・・・安月給のサラリーマンですよ・・・」

岡部は、軽い受け答えをしながら、目だけは田所の姿を追っていた。
彼も岡部と同じように、女達に囲まれている。
無理もない・・・田所は背も高く、整った顔立ちをしているので、ただでさえ目立つ。
ここに居る女達が、彼のような格好の獲物をほっておくはずがない。

しかし、岡部が気になっていたのは、別のことだった。
田所の様子がおかしいのだ。

顔色がよくない・・・
目に光がない・・・

信念に裏付けされた、強い眼差しが消えていた。
身体全体から発散していた、アクティブな波動が全く感じられない。

いったい何があったんだ・・・
あんなに生気のない彼は初めて見た・・・
前に見かけた時には、そんな事なかったのに・・・

 

 


田所 秀一は、ひどく後悔をしていた。
今更ながら、どうしてこんなパーティなんかに来てしまったのだろうと思う。
まだ、とてもこんな席に出られるような気分ではないのに・・・

昨夜、恩師である真田からじきじきに電話があったのだ。
是非、出席してくれと・・・

こんな精神状態で人前に出たくはなかったが、
恩師にそこまで頼まれては、断るわけにはいかなかった。

頭がひどく重かった。
真田 重蔵に挨拶をしたら、早めに退散しよう・・・田所はそう思っていた。
しかし、真田はそんな事も知らずに、孫娘を田所に紹介していた。

「彼は、わしの教え子の中でも、トップクラスに優秀な奴でな・・・
彼の父は、大きな病院を経営していて、ゆくゆくは後を継いで・・・」

真田の話を田所は半分上の空で聞き流していた。

いったい私は・・・こんな所で何をしているんだ・・・

真田の孫娘も、笑顔で何か言っているが、返事をするのも苦痛になっている。
後ろにも、何人かの女達がいて、次々に質問を浴びせてくる。

化粧品や香水のにおいで、気分が悪い。

うるさいっ!!・・・

思わず叫びそうになる。

もう限界だ・・・

 


その時、誰かが田所の前に割り込んで来た。

「お誕生日おめでとうございます、真田先生・・・ご無沙汰しております。」

「おおおおっ・・・岡部君、君も来てくれたかっ!・・・いやいや、ありがとう・・・」

岡部は、チラッと田所を見ると、
今のうちに逃げろ・・・と目で合図をする。

助かった・・・久弥・・・すまん・・・

田所は、やっとその場から逃げ出す事ができた。

 

 

「ちょうどいい、わしの孫娘を紹介しよう・・・理沙というんじゃが・・・」

田所が一人でバルコニーへ避難したのを確認した岡部は、その娘に自己紹介した。

「はじめまして・・・岡部 久弥です。」

「さっきの田所君も優秀じゃが、この岡部君も負けないくらい優秀じゃ・・・
帝都大のエリートじゃからのぉ。」

「先生・・・まだ駆け出しの私に、そんな過大評価をされては・・・
顔から火が出てしまいます・・・」

岡部は、奇麗な笑顔を浮かべてみせる・・・もちろん愛想笑いであるが・・・

「理沙・・・この岡部という男・・・将来は付属病院の院長か、
大学教授ぐらいには、確実になれる奴じゃぞ。どうじゃ今のうちに唾をつけておかんか?」

「いやですわ、お爺様ったら。理沙、恥ずかしいわ・・・」

奇麗な娘だというのは認めるが、岡部には興味のない話だ。

「先生、こんな奇麗なお嬢様でしたら、私なんかよりもっと良い殿方が見つかりますよ。」

「お爺様・・・私、先ほどの方よりも、岡部さんの方が好みですわ。
話しやすいし・・・何といっても可愛いんですもの・・・」

「ハッハッハッ・・・はっきり言う奴じゃのう・・・
どうだ・・・岡部君、場所と日をあらためて会ってみんか?」

「誠に光栄ですが・・・わたくしはまだ半人前の修行の身・・・
そのお話し、どうかご勘弁を・・・」

「うまく逃げたのぉ・・・まあよい、直ぐには無理か。まあ、考えておいてくれ・・・」

 


その後、タイミングを見計らって、やっと岡部はその場を後にすることができた。

まだバルコニーにいるだろうか?・・・

岡部の気がかりは、田所の事だけだった。
ウエイターから、新しいグラスワインを2つ貰うと、バルコニーへ急ぐ。

居た・・・

彼は、バルコニーの隅で、夜の海を眺めていた。


人の気配に振り向く田所。

岡部は、彼の横に行くと、黙ってグラスをひとつ渡す。

「久弥か・・・さっきは助かった・・・ありがとう・・・」

どう話せばいいものか、岡部は思案していたが、思っていた事を単刀直入に聞いてみた。

「いったい・・・どうしたんだ・・・秀一・・・」

「何が?・・・」

「今日の君は、変だ・・・目が死んでいる。」

「・・・・」

「何かあったんだろ・・・秀一・・・」

「お前には関係ない事だ・・・久弥・・・」

岡部は、悲しくなって黙り込んでしまう。
やっとあの人と話しができるというのに、
どうしてこんなすれ違いの会話になってしまうのか・・・

その時、田所は思い出したかのように、突然岡部に話し掛けた。

「久弥・・・お前、覚えているか?・・・まだインターンだった頃、お前に忠告した事を・・・」

「ああ・・・患者さんに入れ込むなって・・・」

「そう・・・それだ・・・覚えていたのか・・・」

田所は、考え込むようにしばらく沈黙した後、再び口を開いた。

「久弥・・・お前にだけは、教えてやろう・・・私が落ち込んでいる理由を・・・」

「・・・・・」

「一人の患者の死だ・・・それでショックを受けてるんだ。」

田所は、自虐的な笑みを浮かべてそう言った。

「久弥・・・笑ってもいいんだぞ・・・人には偉そうに言っていても・・・このざまだ・・・」

岡部にとって、それは意外な理由だった。
あの田所が、患者が死んだというだけで、こんなに人が変わったように落ち込んでしまうものなのか?

「よかったら・・・もっと詳しく教えてくれないかい?」

田所は、静かに夜空を見上げて話し出した。

「久弥・・・お前、超新星って知ってるか?
あまり大きくない星は、その死の間際に、どんな大きな星よりも明るく輝いて、
やがて大爆発をして消えてゆくんだ・・・
彼の生きざまは、まさに超新星そのものだったよ・・・」

「・・・・」

「彼は、若い刑事さんだった。
これで刑事が勤まるのかって思うほど、やさしい笑顔をしていたな・・・
でもな・・・私の所に来た時には、すでに末期癌の状態だったんだ。
あんなに若いのに・・・」

「君は、あきらめるしかなかったんだね・・・」

岡部の問いに、田所は黙ってうなずいた。

「でも彼は、あきらめなかった・・・生きる事を・・・
残された短い人生を、精一杯、自分らしく生きる事に執着していたんだ。
入院も、手術も、延命処置も拒否した彼に、私は何も出来なかった。
少しでも痛みが軽くなるように、薬剤を投与しただけだ。」

「・・・・・」

「彼は、短い人生を、それこそ全力で駆け抜けていった・・・
最高の苦しみ・・・
最高の痛み・・・
そして
最高の喜び・・・
最高の幸せ・・・
すべてを瀕死の身体に刻み付け・・・強烈に輝いて・・・消えていった・・・」

「・・・・」

「壮絶な最後だったよ・・・
私も含め、周りの人はすべて彼の輝きに呑み込まれていった。
私は、ただ・・・彼の最後の光を・・・見ているしかなかったんだ。」

「彼を・・・愛していたんだね?・・・」

「何んだとっ?・・・」

岡部は、自分の吐いた言葉に胸がチクリと痛むのを感じていた。

田所も、触れられたくない所まで、侵入してきた岡部を許せなかった。

「ああ、そうさっ!・・・私は彼を愛してしまった!・・・
だから何だっ!・・・男を好きになって悪いかっ!・・・軽蔑するかっ?・・・
だったら私を笑えっ!!・・・馬鹿な奴だと笑ってみろっっ!!!」

田所は、岡部のむなぐらを掴むと、吐き捨てるようにそう言った。

「僕は・・・笑わない・・・」

「お前なんかに、何がわかるっ!!」

岡部は、田所に突き飛ばされ、その場に倒れ込む。
岡部のグラスが、粉々に砕け散った。

「わかるさっっ!!」

岡部は唇をかみ締めると、田所に向かって悲痛な叫びを投げつける。

「僕だって・・・わかる・・・
僕だって・・・男を愛しているんだっっ!!
君の事を愛しているんだっっっ!!!」

岡部は、涙をポロポロこぼして訴えた。

「ずっと・・・ずっと前から・・・好きだったんだ・・・」

予想だにしない言葉を聞いて、田所は驚きを隠せなかった。

「まさか・・・気が付かなかった・・・」

あふれだす感情に、岡部は涙を止めることができず、
しゃくりあげるような声で、泣いている。

「言うつもりじゃ・・・なかったのに・・・
君が・・・あまりにも・・・つらそうだったから・・・
自信に・・・満ちている・・・君が好きだったから・・・
だから・・・だから・・・」

「わかった・・・もうわかったから・・・泣くなよ・・・」

田所は、岡部が立ち上がるのに、手を差し伸べた。

「スーツ汚れなかったか?・・・知らなかったとはいえ・・・
突き飛ばしたりして悪かった。すまん。」

「グラス、割れちゃった。」

「ああ・・・割れたグラスは、元には戻らない・・・
死んだ人間も、元にはもどらない・・・
生きている者の方が、大事なのはわかっている。
わかってはいるんだが・・・」

田所は、そう言うとバルコニーの手すりに、もたれ掛かり再び暗い海を見詰めていた。

岡部も、なんとか治まった涙をぬぐうと、同じように海を見ていた。

 

 


どれほどの時間、二人でそうしていただろうか。

港から、何隻かの船が出てゆく・・・
夜空の向こうから、飛行機が明かりを点滅させながら降りてくる・・・

そんな光景を、二人は無言で見つめていた。
お互いの心の中を、色んな想いが渦巻き、そして整理されてゆく。

 


沈黙を破って、田所が声をかけた。

「久弥・・・寒くないか?」

岡部は、精一杯の笑顔を浮かべて答える。

「ううん、大丈夫・・・
それより、嫌な思いさせちゃって・・・ごめん・・・
僕なんかに好きだなんて言われて・・・気持ち悪いよね・・・」

「いや・・・そんなことないさ・・・
正直言って・・・結構うれしいもんだ・・・」

田所が、少しだけ照れたように答えると、岡部の表情が明るく変わる。

「でもな・・・久弥・・・私は、急にお前の事を考えられるほど器用ではない。
私にとって、彼の存在は強烈だったんだ。そこをわかって欲しい。」

「そんな事は、気にしないで・・・嫌われなかっただけで、うれしいから。」

田所は、久しぶりに自然な笑顔を岡部に見せると、
彼の肩に手を置いて話し掛ける。

「私も、お前にすべてを話したら、少し気持ちが楽になったようだ。
これで、また明日から頑張れるだろう。礼を言うよ・・・ありがとう。」

それを受けて、岡部も恐る恐る質問した。

「これからは・・・たまに連絡しても・・・いいかな?」

「ああ、もちろんだ。私もいろいろと相談に乗ってもらおう。
とにかく今は、自分に出来ることを精一杯していかなくては・・・
お前は、最高の内科医になれ・・・私は最高の外科医を目指す。」


田所の目には、再びあの強い力が戻っていた。
岡部は、その事が一番うれしかった。


「お互いに、それぞれの道を、歩むんだ・・・わかるか?久弥・・・
二人の道は再び交わる事が、きっとあるだろう。
その時に二人が、どんな想いを秘めているか、それは私にもわからない。」

「ちょっと、期待しとこうかな・・・その方が励みになるし・・・」

「お前がそうしたいのなら、好きにすればいいさ。」

「頑張って進むんだ・・・それぞれの道を・・・」

「それぞれの想いを込めて・・・」

 

 

 

 


おわり




 

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2009,06,21

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