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彼ーーー清田 春樹は、幸せだった。
二人はあれから、時間の許す限り会っていた。
今までの清田人生からは、想像すら出来ないほど、幸福な毎日だ。
しかし、そんな毎日の中にあっても、清田の身体に巣食う病魔は
確実に彼の身を侵しつつあった。
最近では、岬に抱かれた後、激しい体力の消耗を感じる。
一日一日、確実に死が近くなっているのを彼は悟っていた。
その身をもって・・・
田所医師に言われた。
「清田さん・・・あなたは死に急いでいる。」
確かにそうかもしれない。
残り僅かな命をすり減らしてでも・・・岬さんを感じていたい。
できる事なら最後の瞬間まで・・・
岬に抱かれながら死んでゆく・・・
もしそうする事ができたなら、何てすばらしい事だろう。
夢のようだ。
しかし・・・
現実にはそんな事・・・絶対に出来ない。
そう・・・絶対に・・・
だから、そろそろ潮時だと思っていた。
岬のために・・・
身を引く・・・
そう言えばカッコいいかもしれない。
本当は、一緒に居たい。
一緒に居て欲しい。
最後の瞬間まで・・・
でも、それは願ってはいけないことだ。
岬には未来がある。
自分にはない未来がある。
「愛している。」
そう囁かれる。
何度も、何度も・・・
「誰よりも、愛している。」
岬の瞳にうつる自分の姿が好きだ。
愛されていると感じる。
愛されている自分がそこに映る。
答えたい・・・
「俺も愛しています」と・・・
喉まで込み上げる言葉を、必死で呑み込む。
言ってはいけない・・・
言ってしまえば・・・身を引く覚悟がにぶる。
言ってしまえば・・・彼は俺を離さないだろう。
ずるずると別れないままでいたら、いずれは病気もばれる。
そんな事になったら最悪だ。
彼は大事な仕事を放り出してでも、俺が死ぬまで付き添うだろう。
そして、いずれは俺を失い・・・
世間から後ろ指をさされ・・・
出世コースからはずれ・・・
二人の「約束」もかなわぬ夢と終わる・・・
あの人には何も残らない。
だから岬には、決して「愛している。」とは言わない・・・言えない。
それが唯一、清田が、岬に出来ること・・・
あるとき、岬に抱かれながら
「春樹・・・少し痩せたか?」
と聞かれた。
病気を気付かれたくなかった俺は、怒ったように言ってやった。
「岬さんが激しいからでしょ。」
「すまない。無理させて。」
彼は謝る。
ああ、この人は俺の言う事を何でも信じてくれる。
そんな彼を愛しく思うのと同時に、
もう、隠すのは限界だと悟る。
だけど、もう潮時だ と感じながらも・・・
会えば、抱きしめられる。
抱かれるのを望む自分が居る。
あの人の腕の中では、すべてを忘れられるから・・・
時間がない。
幕を引かなければ・・・
そして・・・
その時は突然にやって来た。
幕を引くにふさわしい・・・
絶妙なタイミングで・・・