忍者ブログ 運20 てすと中MOON-NIGHT&LOVERS-KISS
       暇人作成妄想創作BL風文字屋主文書副絵詩色々
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 

 

 

 

 

田所医師に話しを聞いてから、岬は、必死で考えた。

しかし、どんなに考えても答えはひとつしかない。

 

 

 

 

春樹の側に居たい・・・

 

 

それ以外の結論など有り得なかった。


正直・・・

今すぐにでも、春樹のもとへ飛んで行きたい。

でも、それは出来なかった。

 

 

田所の言うように、清田が岬の経歴を守る為に身を引いたのなら、

その心使いを無にしてはいけない。

 

 

 


最低限の「仕事上の責任」を果たす必要がある。


結論が出てしまえば、岬の行動は素早かった。

あちこちに無理をきいてもらい、取れるだけの有給休暇を申請したのだ。

そして、有給の始まるまでの数日で、やりかけの仕事にけりをつけるつもりだった。

新しい仕事は、他にまわしてもらい、今扱っている仕事に全力を傾けた。

それに片が付けば、最低限の責任は果たせるはずだ。

 

 

 

 

 


妥協できるのはそこまでだった。

岬の腹の中では、優先順位は明らかなのだから。

 

 

 

 

 

最後の瞬間まで、春樹の側にいよう・・・

そう、岬は決めていた。

 

 

 

 

 

春樹に残された時間は少ないのだ。

彼より仕事を取る事などありえない。

 

 

 


とにかく彼に残されたわずかな時間のために、すべてを捧げたかった。

有給が足りなくなった・・・その時は・・・

休職を願い出る。

それが駄目なら仕事を辞める、そう岬は決意していたのだ。

 

 

 

 


彼の命が・・・

彼が、もしそんなに長く生きられるならば・・・

俺は、何を失おうと構わない。

 

 

 

岬は、今更ながら、思い知らされていた。

自分の心の中で、いかに「彼」の存在の大きい事か・・・

それに比べれば、自分の出世などいかに小さい事か・・・

 

 

 

 

 

 

明日からは有給がはじまる。

今日中には、どうしても仕事を終わらせるのだ。

この数日というもの、どれほど彼に連絡をしようと思ったことだろう。

 

 

 

 

 


もうすぐ会いに行くからと・・・頑張ってくれと・・・

電話でもいいから伝えたかった。

 

 

 

 


しかし、岬は思い留まった。

春樹は、休みを取る事に反対かもしれないからだ。

それに今は、向こうには向こうの生活がある。

榊達の気持ちも考えると、いたずらに混乱させたくなかった。

彼を悲しませたくなかった。

 

 

 

 


それよりも、休みに入ってから会いに行こうと、岬は決めていた。

明日朝一番で、会いに行こう。

とにかく、話し合おう。

 

 

 

 

時刻は、すでに夜の十二時を過ぎていた。

全ての仕事にけりをつけないと、帰れない。

そして岬は、やっと最後の書類をまとめると、執務室を後にする。

 

 

 

 

 

遅くなってしまったので、岬は途中でタクシーを拾った。

さすがに疲れた。

明日の朝の事を考えると、期待以上に不安が優る。

春樹は俺を受け入れてくれるだろうか?・・・

 

 


岬は、タクシーの窓から、時折すれ違う車のヘッドライトを漠然と見つめていた。

そんな岬の顔を、ミラーでうかがうように見ていた運転手が話し掛けてくる。

 

 

 

 

「お客さん、仲直りしましたか?」

 

 

 

 


どこかで聞き覚えのある声だった。

 

 

 

 

 


「ほら・・・喧嘩しちゃったんでしょ?」

 

 

 

 


この運転手は・・・あの時の・・・

(恋人同士の痴話げんか・・・)

 

 

 

 

あれがなければ・・・

二人の運命はどうなっていただろう・・・

 

 

 

 

「二ヶ月程まえの 寒いどしゃ降りの夜・・・

もう一人の彼氏を偶然乗せたんですよ・・・あなたの家の前から・・・」

 

 

 

 


岬は、驚いて何も答えられない。

 


何もかも・・・あの日

彼を信じなかったから・・・

試したから・・・

 

 

 

 

 

 

無言の岬を見て運転手が口を開く。

 

 

 

 


「何んて事だ。まだ仲直りしてないんですね・・・あの夜、彼はボロボロでしたよ・・・

まるで、この世の中のすべての悲しみを・・・一人で背負っているような・・・

なんとか元気づけようとしたんですけどねぇ・・・」

 

 

 

 

 

運転手の言葉のひとつひとつが、岬の心に突き刺さる。

 


彼は、自分の命が尽きようとしているのに、

俺のためを思い、自ら身を引こうとした・・・

 

 

 

そんな彼に、俺は・・・

いったい何をした?・・・

 

 

 

死にゆく彼の身体を・・・

殴り・・・

乱暴に犯し・・・

冷たく 帰れと吐き捨てた・・・

 


許されるわけがない。

いや・・・許されるべきではない。

 

 

 

「俺が・・・すべて悪いんだ・・・」

 

 

 

名も知らぬ運転手への懺悔の言葉が、ずっとこらえていた感情を解き放った。

あふれる涙を隠すように両手で顔を覆うが、指の隙間から鳴咽がもれる。

 

 

 

 


「・・・うっ・・・ぐっ・・・すまない・・・はる・・き・・・」

 

 

 

 

 

運転手は、それ以上何も言わず、ミラーで岬を見ていた。

 

 

 

もしかしたらもう・・・

俺の顔など、春樹は見たくないのかもしれない。

当然の酬いだ。

もちろん償えるなんて思っていない。

たとえそうだとしても

もう他の誰も愛せない。

 

 


一生・・・

そう・・・それが本心だ・・・

 

 

 

 


どうにか落ち着きを取り戻した岬は、運転手に言った。

 

 

 

 


「明日、朝一番に彼の所に行きます。許してはくれないかもしれない。

でも自分の素直な気持ちをぶつけてみます。」

 

 

 

「そうですか・・・よかった。・・・彼は、死んだ息子にどこか似てましてねぇ・・・

だから幸せになって欲しいんですよ・・・」

 

 

 

 


運転手の目にも涙が浮かんでいる。

 

 

 

 

「もし・・・仲直りできたら・・・もう二度と喧嘩はしません・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

そう・・・・

二度と喧嘩はしない

出来ない・・・

そんな時間はない

残された時間を

もしも・・・

春樹がくれるのなら・・・

大切に・・・

大切に・・・過すのだ・・・

 

 

 

 

 

「お客さん、つきましたよ。」

 

 

 

 

 

何時の間にか、官舎までタクシーはついていた。

 

 

 

 

 

「いくらですか?」

 

 

 

 

 


岬の言葉に運転手は笑って言う。

 

 

 

 

 

「いいですよ、それより息子をお願いします。また二人で乗ってくださいね。」

 

 

 

 

 

運転手は、岬をせかすように降ろすと、

官舎に向かって歩き出した彼を優しいまなざし見つめていた。

 

 

 

 

 

 

ふと、岬の視界に、うずくまっている人の姿が見えた。

 

 

 

「・・・なっ・・・春樹?・・・」

 

 

 

 

春樹がここにいるはずがない・・・

でも・・・

愛しい人を見間違えるわけがない。

 

 

 

 

「春樹っ!・・・春樹っ!・・・」

 

 

 

 

人影に向かって駆け出す岬。

清田は、聞こえてきた声を幻聴だと思った。

だから、直ぐには顔を上げられなかった。

 

 

 

 

まさか・・・岬さんなの?・・・

 

 

 

 


「岬さんっ!」

 

 

 

 

 


震える声で名前を呼ぶ・・・

気力を振り絞って立ち上がる・・・

 

 

 

 


「春樹!!」

 

 

 

岬は、愛しい人を抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、まだ信じられないでいた。

岬さんが・・・

俺を抱きしめてくれるはずがない・・・

だが、この身を強く抱きしめる腕の強さ。

冷え切った体に伝わる体温。

全てが岬だと示している。

 

 

 

 

 


清田は、泣き出した。

 

 

 

 

 


「み・・さ・・きさん・・・」

 

 

 

 

 


やっと、会えた・・・

これで、何時死んでもいい・・・

 

 

 

 

 

清田の髪の毛を優しく梳いてやりながら岬は、幸せと切なさを感じていた。

 

 

 

 

「春樹、愛している・・・」

 

 

 

 

 

だから、泣かないでくれ・・・

泣き続ける、彼の耳元に岬は囁いた。

 

 

 

 

 

 


ああ・・・

俺は、まだ愛されている。

だから、もう嘘はつきたくなかった。

死を目前にして嘘はつけなかった。

 

 

 

 

 

 

「岬さん・・・俺も愛してます。」

 

 

 

 


それは、初めて清田 春樹が口にした愛の言葉だった。

 

 

 


夢の中ではなく、

現実の・・・言葉・・・

 

 

 

 


もう、二人とも言葉が出なかった。

他に何を語るというのだ?

全霊をかたむけた愛の言葉のあとで・・・

全身で愛しい人の存在を感じているのに・・・

 

 

 

 

 


二人の再会を見届けた運転手は、涙を拭うと静かに車を発車させた。

 

 

 

 

 

PR
since 2009/01/17~
ぱちぱち♪ーー更新履歴ーー
★--更新履歴--★
2009,06,21

素敵サイトさま、1件。1月31日。じゅん創作、運命は、奪い与える。本編、番外。全掲載完了。
ただいま、運営テスト中
かにゃあ♪
メインメニュー
goannai
goannai posted by (C)つきやさん
猫日記、ポエム、絵本など。
プロフィール

引きこもり主婦、猫好き、らくがき、妄想駄文作成を趣味。
ブログ内検索
P R
忍者ブログ [PR]