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朝日を感じて目を覚ますと・・・
目の前には優しく微笑む直美の姿があった。
驚いて、飛び起きる。
「直美さん・・・」
夢だと思っていた。
優しい夢だと・・・
直美は、清田の瞳に戸惑いが浮かぶのを見て、優しく微笑む。
俺は、彼女の笑顔を黙って見つめていた。
直美の瞳が・・・
「何も言わなくていいから・・・」
そう語っていたから・・・
優しさに飢えていた。
岬を傷つけながら、自分の心をも傷つけていた。
だから、直美の優しさがひどく胸に染みる。
気がついたら泣いていた。
優しく背中を撫でられて・・・
夕べ夢の中で感じた優しい手は、やっぱり直美なのだと思う。
「清田君・・・いったい何があったのか・・・言いたくないのなら、私も無理に聞いたりしないわ。
でもね私・・・清田君が好きなのよ。今 言うのはずるいのかもしれない。
君の弱さにつけこんでいるって思うわ。でもね、それでもいいって思うの・・・私。」
俺は、直美さんの気持ちを知っていた。
ずっと、彼女は俺を見守ってくれていた。
初めて出会ったときから、好意を示してくれていた。
ああ、こんなに近くに想ってくれている人が居る。
直美に優しく抱きしめられる。
昨日感じた、優しい抱擁だった。
やっぱり・・・
夢の中で俺を抱いたのは・・・
「直美さん・・・」
清田の言葉は、直美の唇に吸い取られ、消える。
清田の身体を
彼女の指が愛撫する・・・
優しく滑るように・・・
長いキスを終えた彼女の舌が、
清田の首筋から胸へ、ゆっくりと這い降りる・・・
彼の下腹部を、そっと包み込むように・・・直美の指が絡み付く・・・
「ごめん・・・直美さん・・・」
その言葉に、直美の動きが止まる。
「そんな気分に・・・なれないんだ・・・」
数秒の沈黙・・・
直美は、清田の胸に顔をうずめたまま言葉をさがす。
「いいのよ・・・気にしないで・・・こっちこそ清田君の気持ちも考えずに・・・ごめんね・・・
でも・・・さっき言った事は・・・本当だから・・・
私、ゆっくり待つわ・・・清田君が振り向いてくれるのを・・・」
「直美さん・・・」
「だから、清田君・・・もう少しの間・・・このままで居させて・・・」
俺は、そっと直美さんの体を抱きしめる。
いったい俺は・・・
何をやっているんだ。
短い人生の最後に・・・
やっと大切な人達ができたというのに・・・
俺は・・・
いたずらにその人達を傷つけている。
救いようのない馬鹿だ・・・
大馬鹿だ・・・
俺なんか・・・
( 早く死んだほうがいいんだっ!)
その時、何かが喉を逆流してくるような圧迫感に襲われる。
慌てて両手で口を押さえる。
そして、激しく咳き込むように、何かを吐き出す。
ああ・・・これは・・・
直美さんの叫ぶ声が、遠くに聞こえる。
自分の両手にべっとりと・・・
赤かった・・・
ああ、血だ。
とうとうここまで・・・
来てしまった。
直美さん・・・
泣いているの?・・・
ごめんね。
いつも心配ばかり・・・
「清田君っっーーーー!!」
直美は、目の前の光景が信じられない。
握り絞めた両手で頭をかかえ、呆然と立ち尽くす。
悪夢・・・
あの時と同じ・・・
赤い血。
どうしよう!
どうしたらいいの!
救急車は嫌だ・・・
岬も嫌だ・・・
彼はそう言っていた。
直美もまた岬には連絡したくなかった。
本能は岬に連絡しろって言っていた。
その言葉を無視する。
エゴだと解っていても。
清田と岬を会わせたらもう・・・
会えなくなる。
そう予感した。
清田君の身体は、どう見てもただ事ではない。
血を吐いたのだから・・・
直美はどうしたらいいのかわからない混乱の中で、
一人の顔を思い出す。
ああ、彼ならなんとかしてくれる。
そう思った。