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俺にとって、それはまさしく絶妙なタイミングだった・・・
「今度、見合いするかもしれない。」
ああ、とうとう来たか、というあきらめと、
理由を作らないですむ安心感が、同時に沸き起こる。
それでも、岬の顔を見るのが辛くなり、
視線をそらす。
「でも、上司の顔を立てて会うだけだ。俺は誰とも結婚するつもりはない。」
泣きそうになるのをこらえるだけで精一杯だった。
すごい口説き文句だよ、ずるいね。
いや、ずるいのは俺かもしれない。
ああ、本気で愛されていた。
嬉しかった。
もう十分だと思った。
でも、もう一度だけ聞きたかった。
最後に・・・
岬の口から・・・
「お前を愛してるからだ。」と・・・
だから、「どうして?」と、聞いた。
岬は少し怒ったように、
「俺にはお前が居るじゃないか。」
って言ってくれた。
その言葉に迷いはなくて、心の奥底から言っているのがわかる。
ありがとう。
十分だ。
そう思った。
ごめんなさい。
許してください。
心で何度も謝った。
後は・・・最もつらい仕事が残っている。
俺は、少し息を吸い込み、覚悟を決めて口を開く。
「見合いして結婚しなくてどうするんですか?
まさか俺が居るから結婚しない、なんて言わないでくださいね。」
岬は、ひどくショックを受けていた。
彼が何を言っているのか理解できない。
「何を?」
言っているんだ・・・?
「これって、遊びでしょ?まさか岬さん本気にしたわけ?」
痛い。
心が痛い。
もう少しだ。
もう少しで楽になる。
自分に言い聞かせるように、おれは言葉を紡ぐ。
「岬さんがもの欲しそうな目で俺を見てくるから、
同情して抱かれてあげただけなのに・・・
俺には他に付き合ってる人いますよ。」
岬の心が壊れていく。
そう俺は、感じていた。
でも、ここでやめるわけにはいかない。
壊れても岬さんは弱い人じゃない。
きっと立ち直る・・・
そう・・・俺への憎しみを糧にしてくれてもいい。
岬は、からかわれていたのか、とショックを受ける。
信じたくない・・・
信じられない・・・そんな言葉。
「・・・嘘・・・だろう?・・・」
最後の望みをこめて、すがるように岬は言う。
・・・嘘です・・・
そう言いたいのを必死でこらえる。
だが、言えない。
変わりに・・・血を吐く思いで反対の事を言う。
「岬さんって・・・本気で俺のこと愛してるなんて言ってたんですか?
気持ちが悪いなあ。俺はただのゲームだと思ってたのに。」
とどめを刺すように吐き出した言葉は・・・
岬だけでなく、俺自身にも突き刺さる。
もう・・・二度と戻れない。
岬の中の、彼への愛しさが憎しみに変わる。
愛していた。
本気で・・・
一生愛し続けるだろう・・・そう思った。
彼も・・・春樹も同じだと思っていた。
でも、彼は一度だってその口で愛を告げたことはない。
ああ・・・
気がつくと春樹を殴っている自分が居た。
優しさも愛も無い、だだ欲望を吐き出すためだけの行為が始まる。
逆らうことなく彼は、岬の怒りをその身に受ける。
乱暴に、扱われながら清田は岬の心の痛みを知る。
全てが終わった後には、今まで見たこともない岬の冷たい瞳があった。
その瞳の奥底に・・・
深い深い悲しみが見えて、思わず俺は声をかけてしまう。
「岬さん・・・」
今更何を言うというんだろう。
俺は・・・
岬は一言だけ返した。
「帰ってくれ。」
夢の舞台は幕を閉じた。
すべてが・・・終わった。