[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「先に出て、車を呼んでくる。」
そう言い残し岬は、先に部屋を出る。
「待って・・・」
不意に不安になる。
岬の姿は既にない。
慌てて後を追いかける。
外に出て岬の姿を見つけると、俺はやっと安心出来た。
「春樹、どうした?・・・おいていかれると思ったのか?」
岬は清田を見て笑った。
清田も岬の姿を見て微笑んだ。
清田は自分の方に歩いてくる岬を幸せな気分で見ていた。
街路樹の影から・・・
直美は、二人の姿を見ていた。
清田君の、あんなに自然な笑顔・・・
最近 見た事ない・・・
嫌だ・・・
私のものよ・・・
返して・・・
直美の頭の中にはそれしかなかった。
ーーーー岬さんが清田君を連れていってしまう・・・
私の前から・・・
この子の前から・・・
清田は、岬の背後の人影にやっと気が付いた。
視力の落ちた目には、ぼんやりとしか映らない。
直美さん?・・・
直美さんなの?・・・
まさか・・・
清田の身体に戦慄が走る。
直美は隠し持っていたナイフを取り出した。
ギラリ・・・
金属の冷たい輝き・・・
「狂気」を込めた「凶器」・・・
「岬さんっっ!!」
叫ぶと同時に駆け出す清田・・・
「嫌ーーっ!!」
叫び声を上げながら岬に襲いかかる直美・・・
ただならぬ気配に振り向く岬・・・
間一髪ナイフを受け止める。
上田君なのか?・・・
まさか・・・
憎悪が狂気に・・・
狂気が殺意に・・・
無理もなかった。
彼女の愛した人は、死を待つばかりだったのだ・・・
それだけで極度のストレスに晒されていた・・・
そして、妊娠を告げられたその日に、愛した人は去ったのだから・・・
直美と岬は、ナイフを奪い合って激しくもみ合う。
争う二人の間に・・・
清田が飛び込む・・・
一瞬の事だった・・・
直美と岬は、我が目をうたがった・・・
二人の握っていたナイフは・・・今・・・
清田の胸に刺さっていた・・・
「嫌ぁーーーっ!」
「そんな・・・馬鹿なっ・・・」
二人は、現実を理解できずにいた。
両手についた清田の血を見つめて、呆然と立ち尽くす。
清田は、自分の胸に突き出ているモノを、黙って見下ろした。
そしてそのナイフを両手でしっかり握り締める。
岬の目を見つめる・・・
二人の視線が絡む・・・
清田は、大きく息を吸い込むと静かに目を閉じた。
「春樹っ・・・やめろーーっ!!」
岬の叫ぶ声、ほぼ同時に・・・清田は・・・
そのナイフを自らの胸にさらに深く・・・刺し込んだ・・・
苦痛はなかった。
しかし
清田の残りわずかな命は
今・・・
確実に終わろうとしていた
間に合わなかった・・・
榊は言葉もなく立ち尽くす。
彼が駆けつけたときにはすでに・・・
呆然と立ち尽くす岬と直美・・・
凶器に貫かれた清田・・・
まさに悪夢だった。
「春樹っっ!!」
岬は崩れ落ちる、彼の身体を抱きしめる。
直美は、呆然と目の前の光景を見ている。
その目から狂気の光が消えてゆく・・・
・・・あ・・・私が・・・
「清田君っっ!!!」
直美が清田に近づこうとするのを岬は拒む。
「来るなっ!!」
清田を抱きしめ岬は叫ぶ。
たじろぐ、直美に向かい清田は手を差し伸べる。
「春樹?・・・」
どうして・・・
岬の瞳がそう訴えている。
清田は岬に微笑む。
「岬さん・・・直美さんのせいじゃない・・・
俺が・・・追い詰めたんだから・・・」
「ごめん・・な・・・さい・・・」
直美は清田の手を握り締めて泣きじゃくる。
「ここで死のうって・・・自分で決めたんだ・・・
だからね・・・岬さん・・・榊さんも・・・
直美さんは何も悪くないから・・・」
榊が、涙声で答える。
「わかった・・・まかせろ、清田・・・」
「よかった・・・」
安心したように清田は、直美のお腹に手を伸ばす。
「子供を・・・愛してあげて・・頼む・・・」
直美は深く頷く。
死を目前にして、清田は初めて自分の子を祝福したくなった。
自分の一部をこの世に残せるような気がしたのだ。
清田は、直美お腹をさすると 優しく微笑んだ。
もう最後だと悟る・・・
岬の顔をまぶたに焼き付けよう・・・
二人が出会ってからの事が、ひとつひとつ頭に浮かんでは消えてゆく。
俺は、この人の腕の中で死んでゆける・・・
岬さん・・・俺・・・幸せでした・・・
清田は最後の力を振り絞って、岬の首に腕を絡めた。
・・・岬さん・・・キスを・・・
岬はせがまれるまま唇を重ねる。
その瞳を潤ませながら・・・
最後のくちづけ・・・
血の味のキス・・・
幸せそうに微笑む清田。
これ以上の幸せはない・・・
綺麗な花の咲くような笑顔だった・・・・
「岬さ・・・ん・・・愛してる・・・」
それが最後の言葉・・・
それっきり・・・
もう・・・
二度と・・・彼の瞳が開く事は・・・
なかった・・・
岬は清田の体にすがりついて泣いた。
「春樹・・・死ぬな・・・俺をおいて逝くな・・・・」
まさに・・・
慟哭だった。
岬は、清田の亡き骸を抱き上げると、榊に告げた。
「私に上田君を裁く資格はない・・・
春樹は自ら、命を絶った・・・それでいいな・・・」
「はい・・・それが彼の遺言ですから・・・」
私は、仲間の望んだ後始末をするだけだ・・・
榊は、泣きじゃくる直美を抱き締めた。
「岬さん・・・あなたはこれからどうするんですか?・・・」
「私か?・・・私は・・・」
岬は、愛しい人の安らかな顔を見つめる。
「私は、上を目指す・・・春樹が死んでも・・・
二人の約束は死んでいない・・・
私が生きているかぎり生き続ける・・・」
空を見上げる岬の目には、涸れることなく涙があふれている。
・・・春樹・・・もう少し頑張ってから 俺もそちらに行こう・・・
待っていてくれ・・・
清田 春樹 が最後に目にしたのは
愛しい人の瞳に映る・・・自分の姿
潤んでいた・・・
あの人の瞳・・・
泣いて・・・
泣かないで・・・
悲しんで・・・・
悲しまないで・・・
愛してるよ・・・
誰よりも・・・・
後悔はなかった・・・
これでいいんだ・・・
これで・・・
岬さんの心には・・・
永遠に俺が焼きついて離れない
ずるいよね
でもね・・・
これが俺の願いだったんだ
《 あなたに永遠に愛される 》
俺は・・・
何て幸せなんだろうって思うよ
泣いてくれているの?
あなたが泣くなんて・・・
思わなかった・・・
本当なら・・・
ずっとあなたの側で生きていけたなら・・・
でも・・・
それが叶わないから・・・
俺はずっと考えていた
あなたに永遠に愛される方法はないだろうかって・・・
あなたの心に俺を刻み付ける・・・
そう・・・永遠に・・・
願いは叶ったね。
あなたは、一生俺を愛してくれる・・・
一生あなたの心に
俺は残る・・・
幸せだよ・・・
でも・・・
ごめんね・・・
岬さん・・・
ーーー運命は、彼からすべてを奪っていったーーー
ーーーしかし彼の最後の願いを叶えたのも運命だったーーーー
両親を奪い
形見のぬいぐるみを奪い
彼自身の命さえ奪った
だけど
彼は手に入れた
本当に望むものを・・・
最後の願いは叶えられた・・・
運命は・・・
奪い・・・
与える・・・
安らかな死に顔だった
微笑みながら
まるで幸せな夢を見ているかのように
彼は・・・
綺麗な・・・
笑顔を浮かべていた
≪THE END≫