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その唇に・・・
ふれてもいいですか?
許してくれますか・・・
最初で
最後のキスは
冷たくて
悲しかった・・・
「そうですか・・・・」
榊から、話を聞いた田所は、静かにそう言った。
悲しいとは思わなかった。
彼は・・・
きっと、幸せだったに違いないのだから・・・
自分の出来る事は、全てした・・・
だから、田所に後悔はなかった。
あるとすれば・・・
田所は、清田 春樹の遺体が安置されている霊安室へむかった。
顔にかかっている布を取り
彼の顔を見つめる。
静かに眠るように、彼が横たわっていた。
微笑んでさえいるようで・・・
田所は思い出す。
「早く現場に戻って・・・仕事を続けたい」
笑いながら
語った彼のことを・・・
田所の瞳から涙が零れる・・・
好きだった。
惹き付けられた
太陽のような笑顔に・・・
「清田さん・・・」
田所は、彼の冷たい頬に手をのばす。
「許してくれますか?」
そう言って・・・
田所は、彼の冷たい唇にそっと口付けた。
冷たかった・・・
冷たい・・・
田所は、泣いた・・・
声もあげないで泣いた・・・
激しい喪失感が田所の心に押し寄せる。
ああ・・・
もう居ないんだ・・・
そう実感した。
悲しかった
どうしようもなく・・・・
私に泣く資格はないのだろう・・・
あなたの死を誰よりも悲しんでいる人がいるだろう・・・
そう思っても・・・
涙は止まらない・・・
後から・・
後から・・・
溢れてくる。
伝えればよかったのか?
後悔が襲う・・・
いや、伝えれば・・・
彼の悩みを増やしてしまうだけだったろう
「清田さん、私はあなたを・・・」
田所は、もう一度清田にキスをすると、
その顔に布をかぶせて霊安室を後にした。
廊下を歩く田所は、一人の冷静な医者の顔に戻っていた。
その下に悲しみを抱えて田所は生きていく。
一人でも多くの患者を助けると心に決めて・・・
「さよなら、清田さん・・・」
田所の呟きは誰にも聞こえずに、
消えた。
おわり