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その夜・・・

 

 

 

 

岬は、婚約者の「真理子」と食事をしていた。

彼女とは、穏やかな時間が過せる。

 

 

見合いをしてから、1ヶ月も絶たないうちに、式の日取りから、何から何まで

話は整い、気がつけば婚約していた。

こうして・・・真理子と穏やかに過している、

そんな自分が信じられなかった。

どこか、現実感に乏しく、まるで別の自分が演じているのを見ているようだ。

今こうして真理子と食事をしていながらも・・・

もう一人の本当の自分は、春樹の事を考えるのだ。

 

 

 


こんな穏やかな時間を、春樹とは過す事はなかった・・・

彼と過す時間はいつも激しかった。

何かに追い詰められているような・・・そんな切迫感があった。

 

 

 

 

 


岬は、自嘲する。

気がつけば、彼の事を考えてしまう。

俺も未練がましい・・・

 

 

 


岬は、ぼんやりと彼女の話に相槌を打っていた。

ウエーターが、客を案内している。

何となくそれを見ていた岬は、心臓がしめつけられた。

ドクン・・・鼓動が跳ね上がるのを感じる。

そこには、あの夜以来会っていない彼が居た。

 

 

 

 

上田刑事と仲良く一緒に・・・

彼が「付き合っている」と言っていたのは彼女だったのか。

 

 


心が悲鳴をあげていた。

手を握り合い幸せそうな二人。

春樹は、少しも私を見ようとしない。

上田刑事はこちらに気がつき、睨んでいる。

殺気すら感じる。

 

 

 

 


直ぐに、直美は岬に気がついた。

岬に言いたいことは山ほどあった。

だが、岬には連れが居た。

それが、あなたの選んだ人なのね。

清田君よりも・・・

 

 

 

 

清田は、直美に手を引かれながら、彼女が何かを見ているのに気付いた。

また自分に向けられた、突き刺すような視線を感じていた。

清田は周囲を見渡す。

すでに低下してきていた彼の視力では、

周囲はぼんやりとしか映らない。

 

 

 

 

誰かが俺を見ている・・・

誰?

 

 

 

清田は岬に気がつかない。

 

 

 

「直美さん、知ってる人でもいたの?」

 

 


直美はぎくりとする。

視力が低下して、かえって清田の勘は鋭どくなった。

でも、言えない。

言えば、落ち着きかけた心を不安定にさせてしまう。

 

 

 

 


「清田君・・・」

 

 

直美はどう言っていいのか迷う。

迷いは声に現れる。

言葉の続かない直美・・・

清田はすぐに察した。

 

 

 


刺すような視線を感じるほうに目を向ける。

ぼんやりとしか見えない視界に写ったのは、

懐かしい岬の姿・・・

なぜか岬だけが、鮮明に浮かび上がる。

嬉しかった。

懐かしかった。

純粋に・・・

会えた事が・・・

 

 

 


「岬さん・・・」

 

 

 

 


清田の口から岬の名が出る。

愛しそうに・・・

 

 

 

 


直美の心が痛む。

まだ、岬の彼女に気がつかない清田を思って・・・

岬の姿だけしか見ていない彼を悲しんで・・・

 

 


「清田君・・・行こう・・・」

 

 


手を引っ張る。

まだ、気がついていないうちに早く・・・

 

 

 

 

真理子は、岬があの二人連れを見たとたん黙り込み、

顔色が変わっていくのに気が付く。

彼女は、岬の目に嫉妬の色が浮かぶのを見逃さなかった。

 

 


いったい誰に嫉妬しているの?

 

 

岬の瞳は、清田しか見ていない。

その瞳は、他の全てのものを映す事を拒絶していた。

 

 

 

 


「大丈夫?顔色悪いわ・・・」

 

 

 


彼女は岬の手に自分の手を重ねる。

岬は彼女の声に我に返る。

 

 

 

 


それを見ていた清田も現実に引き戻される。

岬の手に誰かの手が重なり・・・

 

 

 

 

 


誰?・・・ああ・・・そうなのか・・・

あの人が、岬さんのフィアンセ・・・

彼の子を宿すひと。


綺麗な人だと思った。

とても、優しそうな人だと・・・

わかっていた事だ。

岬は結婚するんだ。

でも実際に仲の良い所を見せられると

ショックだった・・・

わかっていても・・・

 

 

 

 

 

 

だから清田は岬を見つめる。

 

 

 

 

呆然と・・・悲しみを漂わせて・・・

今にも泣きそうな瞳で岬を見つめる。

 

 

 

岬は清田の瞳に浮かぶ悲しみを見た。

 

 

 

 

 

 

どうした?

何があった?

何故、そんな悲しそうな瞳をしているんだ?

 

 

 

 

 

 

「岬さん?どうしたの?」

 

 

 

 

 

真理子が問いかけた。

その声に岬は、ああ・・・と思う。

私には婚約者が居る。

そして現実にもどる。

清田から目をそらして、岬は言う。

 

 

 

 

 

「そろそろ出ようか?」

 

 

 

 


その声が震えているのを彼女は感じていた。

 

 

何?

どうしたの?

 

 

彼女は視線を感じて顔を上げた。

そして、清田を見て核心する。

 

 

 

 


彼だ・・・

岬が動揺しているのは彼のせいだ・・・

彼の瞳が悲しそうだ・・・

彼女の心が痛む・・・

彼と岬は、お互いを愛し合っている・・・

 

 

 

 

 

 


「岬さん・・・」

 

 

 

 

 

彼女は言いかけ口をつぐむ。

岬の顔が辛そうだったから・・・

でも、彼女は言いたかった・・・

 

 

 

( あの人じゃないの?・・・あなたの愛してるひとは?・・・

いったい二人の間に何があったの?・・・)

 

 

 

 

 


岬には感謝をしていた。

心の奥底から・・・


初めて会った時から気がついていた。

この人は、心をひどく傷つけていると。

愛する人を失った私と、同じ瞳をしていると・・・

だから・・・

岬には、本当に幸せになって欲しかった。

出来る事なら何でもしてあげたいと思った。

 

 

 

 

それなのに・・・

互いしか瞳に映さない二人に・・・

ほんの少し嫉妬した・・・

 

 

 

 

彼女は清田が気になり、その姿を見つめた。

傷ついた瞳をしていた。

とても・・・

 

 

 

 

 

清田は、彼女に気がつくと、微笑み軽く頭を下げた。

 

 

岬さんをよろしく・・・

そう彼女には聞こえた気がした。

 

 

 

 

岬の心は乱れていた。

清田の瞳が気になるのだ。

どうしようもなく・・・

気になるのだった。

 

 

 

 

 

岬は勘定を払うと、店の外で榊に会った。

榊も岬に気が付き立ち止まる。

 

 

 

 

 

「榊・・・どうして?」

「私が食事に来たらいけませんか?」

 

 

 

 


苦笑を浮かべて岬を見る。

やつれたな・・・岬さん・・・

 

 

 

 

 


「彼女とおそろいで?」

 

 

 

 

 

榊は岬の傍らに立つ彼女を見て、会釈をする。

 

 

 

 

 


「ああ、そうだ・・・榊、君は待ち合わせか?」

 

 

 

榊は微笑む。

幸せそうに。

 

 

 

 

 

 

「そう、待ち合わせなんです。」

 

 

 

 

 

 

誰とは言わない。

悩めばいいと思う。

せいぜい、悩み苦しめばいいと思う。

二人の間に何があったのか、榊は知らない。

今更知りたくもない。

岬も傷ついたのだろう。

きっと、激しく心が傷ついたのだろう。

清田は、岬の見合いの話を知って、身を引いたに違いない。

死んでゆく自分は、岬の側にいる資格がないと思い・・・

きっと彼は、いつか切り出すつもりで居たのだろう。

別れを・・・

 

 

 

 

 


でも、岬が見合いをしなければ・・・

もしかしたら彼は、自分の望む最後の瞬間を迎えることが出来たのかもしれない。

別れを切り出そうと思いつつも切り出せなくて・・・

そのまま・・・寄り添って・・・

どちらにしても、岬は苦しんだはずだろうが・・・

 

 


清田が一番望んでいるのは・・・

最後まで、岬が側に居てくれる事だったに違いない。

でも、岬は断る事の出来た見合いを受けた。

 

 

清田の愛を信じきれなくて、試したのかもしれない。

でも・・・

もしも私が岬だったら・・・

はじめから見合いなど受けないだろう。

清田が側に居てくれる、それだけに満足していただろう。

 

 

 

 


だからこそ、榊は岬が許せなかった。

岬は、愛されていたのに、清田を信じきれなかった。

側に居るだけで何故満足しない?

 

 

 


まあ、そんな事は今更どうでもいい。

榊は岬に聞く。

 

 

 

 

 


「あなたは今幸せですか?」

 

 

 

 

 

 

岬は黙り込む。

 

 

幸せ?

俺の幸せはあの瞬間に終わった。

見合いを受けなければ・・・

あの話をしなければ、清田はまだ俺の側に居てくれただろうか?

 

 

そんな考えが岬の心に浮かぶ。

榊には岬の心中が手にとるようにわかった。

 

 

 

「あなたは、間違ってしまったんですよ。

そう・・・満足すべきだったのに・・・あなたは、彼を試した。

全ては、あなたが招いた事だ・・・今更、あなたに彼のそばにいる資格などはない!」

 

 

 

 

 


榊は岬に背を向け店の中へとむかう。

岬は呆然と立ち尽くす。

 

 

 

 

 

 


どういう意味だ?

榊・・・

 

 

 

 

 

 


まるで、自分の心を読まれているみたいな謎かけだった。

 

 

 

 

 


俺が試した?

ああ・・・そうだ。

俺は試した・・・春樹を・・・

でも・・・?

どういう意味だ?

側に居る資格とは?

なんだ?

 

 

 

 

 

岬の視線は、窓際に座っている直美と清田を見る。

榊が二人と合流して・・・

3人は仲良く話し出す。

 

 

 


3人で?

何故?

どうして??

わからない。

榊は困惑する。

 

 

 

 

 


「行こう・・・」

 

 

 

 


足早に歩き去る岬。

その場を離れたかった。

3人の笑顔を見ているのがつらかった。

濡れ衣をきせられた罪人のように、

追われる犯罪者のように

岬は逃げた。

 

 

 

 

 

 

彼女は、確信していた。

榊の言葉の意味が、少しだが彼女にはわかったのだ。

彼は・・・

病んでいる・・・

おそらく・・・もう長くはない・・・

私の愛した人もそうだった・・・

私を愛すればこそ別れを切り出した。

あの彼もまた・・・

そうなのだろう・・・

岬は彼の言葉を信じてしまったのだ。

彼の愛を疑ってしまったのだ。

言葉以外にも愛はあふれていただろうに・・・

 

 

 

 

 


可愛そうなひと・・・

どうにかしてあげたいと思った。

岬を縛りつけている原因の一つは、自分自身なのだろうと、彼女は思う。

解放すべきだ。

彼女は決意した。

 

 

 

 


足早に歩く岬に彼女は言った。

 

 

 

 

 

 

 


「この婚約解消してください。」

 

 

 

 

 

 


岬は驚いて彼女を見た。

清田の瞳が気になり・・・

榊の謎掛けに心は揺れ・・・

 

 

まだ、春樹を愛している自分に気が付く・・・

 

 

 

 

 


そう、他の誰も愛せないほど彼を愛していた。

だから・・・

彼女に切り出そうとしていたのだ。

婚約を解消してくれないかと・・・

その矢先の彼女の言葉だった・・・

 

 

 

 

 

 


「どうして?」

 

 

 

 

 


思わず問い返す。

 

 

 

 

 

 


「私は・・・妊娠しています。」

 

 


知らなかった・・・

岬は、何一つ知らされていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「相手は・・・?」

「亡くなりました。」

 

 

 

 

 

 


辛そうに彼女は目を伏せた。

彼女の話はこうだった。

彼女には愛している人が居た。結婚を約束していた。

だが彼は、病に倒れて返らぬ人となった。

彼女の父親は、強硬に中絶をすすめた。

だが、彼女は頑なにそれを拒んだ。

 

 


だからか・・・

岬は納得した。

 

 

 

 

申し分のない容姿、申し分のない性格、申し分のない家柄。

彼女ほどの女性が、なぜ結婚を急いだのか・・・

彼女は子供の為に見合いをしたのだ。

 

 

 

私は・・・?

何のためだ?

どうでもいいような気がした。

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい・・・騙すような事をして・・・

そうしなければ、私はこの子を手元に置けなかったかもしれない・・・」


「・・・・」

 

 

 

 

 

 

岬には何もいえない。

何を言えばいいのかもわからない。

彼女は岬の目をまっすぐ見て言った。

 

 

 

 

 

 

「彼はね・・・私を愛してくれていたの・・・

でも、自分の命があと僅かだと告知された彼は、病気の事を私に隠した・・・

そして突然、別れを切り出して来たわ。

自分みたいな男は、私にはふさわしくないって・・・」

 

 

 

 

 

 


彼女は思い出す。

自分の愛した人の最後を思い出す。

 

 

 

 

 

 

「でも・・・私は騙されなかった。

彼の瞳が悲しみでいっぱいだったから。

彼の愛を疑ったことなどなかったから。」

 

 

 

 

 

 


彼女の言葉が岬の心に警笛を鳴らす。

見合い話を聞いて顔を伏せた仲間・・・

あの時、彼の声は震えてはいなかったか?

決して、岬の目を見ようとしなかった清田は・・・

 

 

 

 

 

「私が妊娠しているのがわかって、彼は初めて病気の事を打ち明けてくれた。

そして、彼の側に居る事を許してくれた。

でも、それから彼は絶対に「愛してる」って言わなくなったわ。

私も言わないよう気を付けていた。彼にね・・・愛してるって言うとね。

彼は、その度に辛そうに目を伏せるの・・・

互いに何も言わなかったけど、私は彼を信じていたわ。

私は彼に愛されている自信があったから・・・彼の愛を疑いもしなかった・・・

彼の目は、私を愛しているって語っていた・・・」

 

 

 

 

 


彼女の瞳は何かを岬に訴えかけていた。

 

 

 

 

 

 

 


「愛している・・・」

 

 

 

 

 

 


囁けば・・・

辛そうに瞳を伏せ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「俺も・・・同じです。」

 

 

 

 

そう答えていた春樹・・・

いつも、いつも辛そうだった。

眠っている時も、何かに怯えているように俺にしがみついていた・・・

 

 


彼の唇が、俺への愛を語る事は一度もなかった・・・

いや、一度だけある・・・

眠っている清田が一度だけ・・・うわ言のように言った。

 

 

 

 


「俺も・・・岬さん・・・愛しています・・・」

 

 

 

 

 


岬は、何かを見落としている自分に気がつく・・・

まさか・・・

まさか・・・

 

 

 

 

 

痩せていく身体

食欲がないのだと言っていた

抱きしめたら壊れそうなほど細くなっていた体・・・

時折咳き込む・・・

苦しそうに・・・・

煙草を吸わなくなった彼

答えはいつもそばにあった・・・

 

 

 

 

 

 

 

清田は、どこかを病んでいる・・・

岬は、やっと気がついた・・・

気がつき・・・呆然と立ち尽くす。

 

 

 

 

 


彼女は、そんな岬を見つめていた・・・

過去の自分を見ているようで辛かった・・・

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫?・・・」


「・・・すまない・・・今日は君を送って行く事はできない。

どうしても・・・できるだけ早く、確認したい事ができたんだ。

ありがとう・・・君のおかげで、自分の間違いに気が付いた。

感謝している・・・

さようなら真理子・・・」

 

 

 

 

 

 


岬は、振り向くと駆け出していた。

 

 

 

春樹・・・

確か彼は・・・刺された時と同じ病院に通っていると言っていた。

あそこなら、知っている。

 

 

 

 

 

 

岬は、タクシーに飛び乗った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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