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目を覚ましたら、心配そうな直美さんと榊さんが居た。

ああ、この二人は知ってしまったんだと思う。

 

 

少し気が楽になるのを感じる。

誰にも弱音を吐けないのはとても辛い。

 

 

二人は語るのだ。

口には出さないが。

その優しい目で、背中をさする優しい手で、語るのだ。

 

 

 


もう、苦しまなくていいから・・・

泣いてもいいから・・・

甘えてもいいから・・・

 

 

 

 

言葉はなくとも、最上の愛情をくれる。

優しさと・・・

いたわりをこめて。

 

 

 

 

 

今更ながらに清田は気がつく。

俺は一人ではないのだ。

きちんと愛情を持ってくれている人が居た。

 

 

 


最後の瞬間まで・・・

きっと、二人は俺に付き合うつもりだ。

 

 

 

清田は迷う。

自分なりに「死」に対しての「覚悟」はできていると思っていた。

しかし、大量の血を吐き、現実に「死」が間近に迫っているのを感じた時、

その「覚悟」が揺らぐのだ。

 

 


一人のままで死にたくない・・・

だけど・・・

直美さんと榊さんに甘えても許されるのだろうか?

差し出された手を掴んでもいいのだろうか?

一番大切な人を傷つけたのに・・・

俺は、自分だけ楽になろうとしている。

きっと地獄へ堕ちるにちがいない。

 

 

 

 


迷う。

迷って・・・

泣いた。

途方に暮れて・・・

 

 

 

榊と直美は、黙って清田を抱きしめる。

何を言えばいいのか二人にもわからない。

 

 

 

 


でも、彼が愛しい・・・

病気の事を知ってから、その想いはもっと強くなっている。

 

 

 

 

二人とも、清田を愛していた。

その優しさは、清田の心を暖かく包み込む。

 

 

 

 

 


しかし、彼の心の傷は癒えることなく、

また、時の流れは、清田の体を確実に死へと導いていた。

 

 

 

 

 

 

 

三人は、一緒に暮らすようになった。

いつでも清田の側に居られるように・・・

最後の瞬間まで、彼が寂しさを感じないように・・・

 

 

 

 

 


自分達の出来ることは限られているけれど、彼の側に居たいのだ。

それが、彼の本当の望みではないとしても・・・

 

 

 


清田と直美は、同伴で仕事に出勤するようになった。

彼が、仕事を続けることにこだわったからだ。

病気の事は、職場の誰にも、何も知らせなかった。

 

 

 

 


だが、直美は、外回りに行く時に必ず誰かに

 

 


「清田君の側にいてね。」

と頭を下げていくのだ。

 

 

 

 

帰りは榊が迎えに来る。

彼もが、頭を下げるのだ。

 

 

 

 


「清田を一人にはしないでくれ。」

 

 

 


初めは誰もが不思議に思った。

直美と榊の行動が理解できなかった。

その理由を清田にたずねる者もいた。

 

 

 

 

だが・・・

清田は笑っていた。

無邪気にあどけなく笑っていた。

透き通った綺麗な笑顔。

全てを悟りきった微笑み。

それは今にも消えそうな・・・笑顔だった。

 

 

 

そして・・・

毎日顔をあわせていれば・・・

誰もが気がつく・・・

清田は日に日に衰弱している。

 

 

 


ああ・・・

まさか・・・

そうなのか・・・

彼の命は・・・

 

 

 

 

 


榊は、自分のもてうる限りの特権を利用して清田を守った。

頭などいくらでも下げる。

彼のためなら何でもしてやる。

プライドなんてどうでもいい。

 

 

 


まず初めに署長に頭を下げた。

 

 


「清田が署にいては、迷惑をかけるかもしれない。

だが・・・私としてもできるかぎりのフォローをするから・・・」

 

 

 


何故キャリアである榊が、犬猿の仲だった・・・

清田のために頭を下げるのか、

 

 

 


署長をはじめ、誰にも理由がわからなかった。

しかし・・・

やがて誰もが・・・

ああ・・・もしかして・・・

と思う。

 

 

 

 


清田君は・・・

そうか・・・

 

 

 

 

 

 

誰もが、清田を好きだった。

彼を必要としていた。

その彼のためなら・・・

自分に出来ることは何でもしよう・・・

そう思わない者はいなかった。

 

 

 

 

 

ある者は、榊をつかまえると、自分から切り出した。

 

 

 

 


「榊さん・・・僕に出来る事は・・・」

「・・・側に居てやってくれ。」

「はい・・・」

 

 

 

 

 


皆・・・何かを感じていた。

だが、誰も何も言わなかった。

認めたくなかったのだ。

誰もが・・・

 

 

 

 

 

 

 

彼は、心優しい人達に囲まれて幸せだった。

だけど・・・

一日に何度も思い出すのは・・・

あの人の事・・・

あの人の・・・

心の傷は癒えただろうか?

 

 

 

 

 

 


岬の事を考えると心が痛んだ。

自分の言葉が刃となって、あの人の心を切り刻んだのだから。

そしてあの人の痛みは・・・

増幅されて自分に跳ね返って来ていた。

 

 

 


今の清田は、肉体的にも精神的にも、瀕死の状態なのだ。

みんなに、どれだけ優しくされても、

直美と榊に、どれだけ愛されていても、

それは幸せな事だと思うが、

清田の心が完全に晴れることなどありえなかった。

 

 

 

 

 

はかない笑顔を浮かべるのが精一杯だった。

 

 

 

 

 

 

 

岬さん・・・

暗闇の中

声にならない声で

あなたの名を叫ぶ

夢の中で

幻の中で

会いたい

会えない

あなたは誰かを愛するんだろうか?

俺を愛したように

他の・・・

誰かを・・・

 

 

 

 

 

 

 

 


ある朝のことだった・・・

清田は、通常よりも早い時間に眠りから覚めた。

いつもなら、直美か榊のどちらかが側に居るのに、今日は何故か姿がない。

どうやら二人は、リビングに居るようだ。

閉じられたドアの向こうから、二人の話し声が聞こえているからだ。

 

 

 

 


清田は、ベットから抜け出すと、リビングへ抜けるドアのノブを掴む。

その時だった。

 

 

 

 

 

「ええっ?岬さんが、婚約?」

 

 


驚いたよう直美の声・・・

それを聞いた清田は、ドアノブを掴んだまま、凍り付いてしまう。

 

 

 

 

「上田君・・・」

 

 

 

 


嗜める榊の声が聞こえる。

 

 

 

 

 

「でも、早くない?」

「ああ・・・噂では相手は妊娠しているらしい・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


榊の吐き捨てるような声・・・

 

 

 

 

 


「まさか!!岬さんの子供なの?」

 

 

 

 

再び驚く直美の声と、後に続く榊の苦々しい言葉。

 

 

 

 

 


「あくまでも、噂だが・・・」

 

 

 

 

 

 

音も無く扉が開く。

青白い顔の清田が立っている。

 

 

 

 


驚いて呆然と清田を見る二人。

 

 

 

 

 


「岬さんが・・・どうしたんですか?」

 

 

 

 

 


清田の問いに、榊は焦った。

どの程度まで、聞こえていたのだろう?・・・

迷い、

躊躇う。

死へ確実にむかっている清田に・・・

聞かせていいものかどうか・・・

 

 

 

 

 

 

 

「榊さん・・・隠さずに教えて下さい。いずれ、わかることじゃないんですか?」

 

 

 

 

 

確かにそうだった。

清田の言うとおりだ。

隠し通す事などできはしない。

 

 

 


榊は、覚悟を決めると重い口を開く。

 

 

 

 

 


「岬さんは、婚約した・・・来月にも入籍するそうだ・・・」


「そうですか・・・他には?・・・」

 

 

 

 


追い討ちをかけるような清田の問いに、榊はたまらずに目をそらす。

 

 

 

 

 

「いや・・・話しはそれだけだ・・・」

「俺・・・別に驚きませんよ。あの人が見合いをするのは、知ってましたから。」

 

 

 

 

穏やかな表情で、そう話す清田。

それを見た榊と直美は、少しほっとする。

しかし清田は「妊娠の噂」が真実だと直感していた。

本当にただの「噂」ならば、「根も葉もない噂だ」と言えばいい。

それなのに榊は、清田に嘘をついてまで隠そうとしたのだから。

 

 

 


清田にしてみれば、榊の気使いが嬉しくもあり、うっとうしかった。

もちろん榊と直美には、感謝している。

最後の瞬間まで・・・

側に居るてくれる事を決めた強い二人。

 

 

 

 

二人の為になら・・・

まだ笑う事の出来る自分が居る。

そんな二人に、感謝するのは当然だ。

俺を愛してくれている。

だけど・・・

それに答える事が出来ない俺には

二人の愛は、優しすぎて心に突き刺さるのだ・・・


だから・・・

少しだけ、疎ましく感じてしまう。

そして、そんな事を感じてしまう自分自身が、

一番・・・疎ましかった。

 

 

 

 


そして、何よりもショックだったのは「妊娠の噂」だった。

岬の「婚約」より・・・

相手の女性が「妊娠した」という事実に、清田の心は激しい拒否反応を示した。

妊娠?

何で?

 

 

 

 

 


信じたくなかった。

えごかもしれない。

わがままだとは思う。

でも、どこかで思ってたのだ。

岬さんが俺以外を抱く事なんてありえないって。

岬さんの子供が生まれる頃・・・

きっと俺は、生きてはいない。

岬さんは、きっと可愛いがるだろう。

奥さんと子供・・・

それを見守る岬さん・・・

 

 

 

 

絵に描いたような幸せな家庭が、清田の脳裏に浮かんだ。

幸せそうに微笑む岬の姿・・・

俺だけに見せてくれていた微笑を、他の者へむけるんだ・・・

嫌だ・・・

 

 

 

 

 

「春樹・・・愛している・・・誰よりも・・・」

 

 

 

 

幻聴が聞こえる。

妊娠・・・

残酷なまでの現実

 

 

 

 

 

女を抱く岬の姿が

清田の頭の中に浮かんで消える

 

 

 

 

 

 


あの激しさの中で

あの悦楽の中で

あの腕の中で

俺だけにささやかれた言葉・・・

 

 

 


「お前さえ居てくれたなら、他には誰も要らない・・・」

 

 

 

 


あの言葉を他の誰かにも・・・ささやいているの?

俺の中だけに注がれていた愛

あの激しい愛を・・・

あの熱い愛を・・・

ほとばしる愛の証を・・・

 

 

 

 

 

 

何処かの女の中にも注いでいるの?

 

 

 

 

 

 

 

ああ・・・

岬は男だ・・・

自分の子供が欲しくなって当然だ・・・

だけど俺は男だから・・・

命を生み出す事など出来やしない・・・

それどころか・・・

自分の命さえ・・・

もうすぐ・・・

 

 

 

 

 

 

 

清田は・・・

自分をあざ笑う。

 

 

 

 

 

 


女に生まれたかった

と一瞬でも考えた己をあざ笑う。

 

 

 

 

 


俺は・・・

馬鹿だ・・・

 

 

 

 

 

 

 


翌朝、息苦しさで目を覚ます。

久しぶりに、少し血を吐いた。

しばらく薬で押さえていたのに、効かなくなって来たのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

終わりの時が近づくのを感じていた。

終わりを前にして、俺は岬さんに会いたくてたまらなかった。

でも・・・

今更会えない・・・

会えるわけもない・・・

自分からそう仕向けたのだから。

でも、会いたくてどうしようもない。

会いたくて・・・

会いたくて・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして・・・

ある晩・・・

清田の願いは、叶う事になる。

 

 

 

 

 

 

気まぐれな「運命」は・・・

意外な形で、再び二人を交錯させるのだった。

 

 

 

 

 

 

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