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岬と清田の二人は、本庁の前からタクシーを拾った。
今から、岬の住んでいる「官舎」へ向かうのだ。
官舎とは、岬のような独身の警察官僚の為の「社宅」のようなものだ。
清田はタクシーの中で、うきうきしていた。
そんな彼を見て、岬も気分が浮き立つのを感じる。
「そんなに。手料理が食べたかったのか?」
清田は岬の顔をみつめて笑った。
「いやだなあ~ 料理だけじゃないですよ。岬さんに会えて、俺・・・ものすごく嬉しいんですって。」
にこにこと笑顔で言われて、岬もまた心に浮かんだ事をそのまま返す。
「私も、清田に会えて嬉しいぞ。」
清田は、まさか岬がそんな事を言うとは、想像すらしてなかったので、思わず頬を染めてしまう。
「清田・・・顔が赤いぞ。どうかしたか?」
まさか、自分の発言に赤くなったなどとは思わない岬は、清田の額に自分の額をくっつける。
「熱は・・・無いみたいだな。」
清田は固まってしまう。
「み、みさきさん・・・熱なんてありませんから。」
そう言いながら、ますます清田は顔を赤くする。
榊さんも、天然だけど・・・岬さんもけっこう天然??
「清田、何か変だぞ、お前・・・」
誰のせいだよ・・・赤くなったの
そう思った清田も言い返す。
「岬さんの方が変ですって。」
心配したのに、言い返され、岬もむきになる。
「どっちが・・・」
二人は、タクシーが着いてもまだ言い合いを続ていた。
運転手は、そんな二人にどう口をはさんだらいいものか見ていたが、
なかなか終わらないので、ついぽろっと口を滑らす。
「まるで恋人同士の痴話げんかだ・・・」
それを聞いた二人はぎょっとして、黙り込んでしまう。
二人の顔は、まっ赤になってしまっていた。
やっと静かになった二人に運転手は、
「仲が良い証拠ですよ。3200円です。」
と言って微笑んだ。
岬の部屋に入っても、二人の耳には運転手の言葉がこびりついて離れない。
( 恋人同士って言われた )
清田は、顔が赤くなっている。
( ち・痴話げんか・・・)
岬も顔が赤くなり、眉間の皺がさらに増えている。
それを見て・・・清田は少し悲しくなった。
「岬さん・・・俺と恋人同士って言われたの、そんなに嫌なんだあ。」
すねたような清田の言葉に、岬はうろたえてしまう。
( 何でそんな悲しそうに言うんだ? )
「嫌なわけじゃない・・・お・俺はどっちかっていうと大歓迎だぞ。お前こそ嫌なんだろう?」
「俺・・・嫌じゃないです。とっても嬉しかったもの。」
そう、嬉しかった。
何を考えて運転手が言ったのかはわからない。
男と男なんだし、友人には見えても、普通なら恋人どうしなんて思わないだろう。
そんなに仲がいいように見えたのだろうか?
あの時は、心を読まれたのかと思うほど驚いて、
とっさに運転手の言葉を否定する事ができなかった。
そういえば、真っ先に否定しそうな岬も、否定していないことに清田は気がつく。
岬も自分の言った言葉に戸惑っていた。
よく考えもしないで言ってしまった。
ーーー俺は大歓迎だーーー
「私」から「俺」へと変わっている。
感情的になっている自分がいる。
彼の前ではいつもの自分じゃなくなってしまう。
何故、こんなに心が乱れるのだろう・・・
ああ・・・
今ごろ気が付くのか?
俺は・・・
俺は、彼が好きなんだ・・・
どうして今まで気が付かなかったんだろう。
恋人同士といわれて嬉しかった・・・
そういう「意味」で清田が好きなのだ・・・俺は・・・
自分の想いを自覚した岬は、清田も嬉しいと言っていたのを思い出す。
「岬さん。」
「清田。」
二人の声が重なる。
見詰め合う。
二人は・・・同時に悟る。
互いの気持ちが同じである事に・・・
岬は言う。
自分の思いを伝える。
「清田、俺はお前が好きだ。」
お前は?
どうなんだ?
岬の瞳が訊ねているようだ。
清田は、「好きだ。」とは言わない。
言えない・・・
「岬さん、俺も同じです。」
笑った・・・
清田は、嬉しそうに・・・どこか悲しそうに・・・
その笑顔は岬をとても切なくさせた。
彼の瞳から涙が零れる。
どうして泣くんだ?
でも聞いてはいけないそんな気がして・・・
彼がどこかへ消えてしまいそうなそんな気がして・・・
岬は彼を抱きしめる。
清田の身体は、岬の腕の中にすっぽりとおさまる。
まるで、あつらえたかのように・・・
俺は、嬉しくて悲しかった。
岬もまた、自分と同じように思っていてくれた。
嬉しかった。
でも・・・
残された時間は・・・あとどれぐらいあるのだろう?
岬の腕の中は居心地がいい・・・包み込んでくれる腕の中が暖かい・・・
・・・涙が止まらない・・・
岬が優しくキスをする。
慰めるように・・・
優しく・・・優しく・・・
愛しいと思う。
この腕の中に居る彼を・・・
全てから守ってあげたい。
彼の、この涙は、嬉しさで流しているんだ、
と岬は思いたかった。
ああ、これは夢なのか?
自問自答する。
朝になれば覚めてしまう夢なのだろうか?
夢ならば、覚めないで欲しいと願う。
いや・・・これは夢じゃない。
岬の体温を身体に感じる・・・
清田に優しくキスをしているうちに、岬は自分の下半身が熱を持ち出した事に気がつく。
彼が気付く前に・・・そっと、体を離そうとする。
すると彼は、
「嫌だ、岬さん・・・離れたくない。」
そう言ながら更に強くしがみつく。
そして今度は自分ら岬に・・・キスを仕掛ける。
俺を求めて・・・
激しく・・・
ぼろぼろになってもいいから・・・あなたを感じたい。
体全体で・・・
その願いを込めて・・・岬の唇を求める。
舌を吸い尽くすように・・・激しく・・・
「清田・・・いいのか?・・・」
そう問いかける岬に、清田は潤んだ瞳で頷く。
そう・・・それこそ清田の願いなのだから。
熱い・・・
熱くてとろけそうだ。
快感に溺れる声・・・
愛しい体・・・
彼の身体を気遣いながらも
激しく突き上げずにはいられない。
何度も・・・
何度も・・・
少しだけ苦痛の表情を浮かべた彼に、優しく愛撫を繰り返す。
それに敏感に反応する、彼の身体・・・喘ぎ・・・
愛しい・・・
溺れそうな自分が居る。
ここまで、快感を感じたことはない。
今まで相手にした女(ひと)とは違う。
これまでは、自分の欲望が静まればそこでおしまいだった。
だが、彼にはもっと快感を感じてほしい。
乱れて欲しかった。
腕の中で。
熱い・・・
わずかな苦痛など・・・ひとつになれる喜びが消し去る。
身も心も・・・
このまま岬さんの中に溶け込めたらいいのに。
優しくしてくれる・・・
とても激しくて・・・それでいて、優しい。
泣きたくなるほどに・・・
何度も高みに連れ去られ・・・追いつめられ・・・
熱い息で喘ぎ、更に求める自分が居る。
体中にキスを浴び・・・
未知の快感に・・・狂い・・・
そして・・・何度も何度も追い上げられる。
一緒に高みに上り・・・一緒におちた時・・・
耳元で囁かれた。
「春樹、愛している。」
いっそこのまま死ねたら幸せだろう。
そんな誘惑にかられる。
「俺も・・・」
愛してます。
誰よりも
あなたを
愛しています。
でも、言えない。
口には出せない。
ああ、許してください。
あなたを愛してしまった俺を。
許してください。
そして俺は意識を手放した。
天国にいる気分のままで・・・
こんな幸せ・・・
感謝します・・・
神にではなく・・・岬に。
意識を手放した彼を岬はそっと抱きしめる。
つい、愛しているといってしまった。
それでも彼は、嬉しそうに微笑んで、
「俺も・・・」
と応えてくれた。
嬉しい。
今まで生きてきた中で、これほど嬉しかったことはない。
そう岬は思うのだった。
腕の中にいる彼を
もう手放す事などできない。
彼が嫌だと言っても離れるつもりはない。
「心の底から愛している。」
その岬の声が、意識のない彼には届いたのだろうか?
夢うつつに彼は答える。
「岬さん・・・俺も・・・愛してます・・・」