忍者ブログ 祈3-記憶 てすと中MOON-NIGHT&LOVERS-KISS
       暇人作成妄想創作BL風文字屋主文書副絵詩色々
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。















初めて兄さんと出会ったのは・・・
僕が、3歳か、4歳ぐらいの頃だっただろうか・・・

人の記憶など・・・
ましてや幼い頃の記憶など、あいまいなものだと人は言うだろう。

しかし・・・

まだまだ幼かった僕の心に、
兄さんの優しさ、暖かさは、しっかりと刻みつけられていた。

忘れもしない・・・
あの日・・・






僕は・・・
遠い、遠い、記憶をたぐり寄せる・・・

そこには、朝からはしゃいでいる、幼い時の僕がいた。


母と出掛けるのが、余程うれしかったのだろう。
病弱だった僕は、それまであまり遠くまで出かけた事など無かった。

真新しい服を着せてもらい・・・
白い帽子に・・・
ぴかぴかの黒い靴を履いて・・・

その日の母は不思議と、とても優しかった。

僕の髪に、丁寧に丁寧に櫛を通す母・・・
その時の母の表情を、僕は決して忘れない。




夏も終わりだとはいえ、まだまだ暑い日だった。
強い日差しをさえぎる雲も無く、青い空は澄み切っていた。

初めて乗る電車・・・

母さんと一緒に・・・

靴を脱ぎ、窓につかまるように後ろ向きに座って・・・

僕は飽きもせず、窓の外を流れる風景を見ていた。


ほらほら・・・母さん・・・

橋だよ・・・

トンネルだよ・・・

何もかもが珍しく、新鮮だった。

嬉しくて・・・
とても嬉しくて・・・僕は、はしゃいでいた・・・

いつもなら怒る母も、この時は何故か微笑んで僕の顔を見ていた。

今にして思えば・・・あの母の笑みは、何処か悲しさを含んだ微笑みだったような気がする。

でも、その時の僕は、ただ・・・
母が笑ってくれた事が、嬉しかった・・・






何度も電車を乗り換え・・・
たくさん歩いたような気がする・・・

「さあ・・・着いたわよ・・・」

延々と続く・・・白い壁・・・
二人が着いた所は、大きな大きな御屋敷の前だった。

「何処なの?・・・ここ・・・」

そう聞いた、幼い僕に母は少し悲しそうに答えた。

「おばあちゃんの所よ・・・」

改めて見上げる、大きな門・・・
その扉は、ピタリと閉ざされ、何処か冷たい感じがしたのを覚えている。


「夏樹・・・疲れた?・・・」

母は、僕の前にしゃがむと、白いハンカチで僕の額の汗を優しく拭ってくれた。

「ううん・・・大丈夫だよ・・・母さん・・・」

「そう・・・夏樹はいい子だね・・・」

母は、そう言うと僕を抱きしめて、頭を優しく撫でてくれる。

「母さん・・・どうしたの?・・・」

母は、何も答えず、ただ僕を抱きしめた・・・


この夏・・・最後のセミが・・・

何処か遠くで鳴いていた・・・





「いい?夏樹・・・母さんの言う事を良く聞きなさい・・・」

やがて母は、僕の帽子の向きをきちんと直すと、改めて頭を撫でながら言った。

「母さんは、用事があるから行くけど、夏樹はここで、待ってるのよ・・・」

「う・・・うん・・・」

「そして、これを・・・このお家の人に渡しなさい・・・」

母は、ハンドバッグから、一枚の封筒を取り出し、しっかりと僕に握らせる。

「夏樹は、いい子だから・・・ここでちゃんと待ってるのよ・・・出来るわね・・・」

「うん・・・母さんは?・・・母さん・・・戻ってくる?・・・」

微かに・・・目を逸らすようにうつむく母・・・

そして、もう一度僕を抱きしめた・・・

「夏樹・・・ごめんね・・・夏樹・・・」




母は・・・
去った・・・

だんだんと、小さくなってゆく後姿。
泣きそうな顔でそれを見ている僕。

その時・・・母は、一度だけ僕の方を振り返った・・・

追いかけたい気持ちを必死に抑えて・・・
泣きそうになるのを我慢して・・・
僕は・・・何故か母に、笑顔を作って見せた。


やがて・・・
その姿は見えなくなり、僕はしかたなく一人で大きな門の側に座っていた。
一枚の封筒を、失くさない様にしっかりと握り締めて・・・



今でも時々思う・・・
何故あの時・・・母の後を追わなかったのだろうと・・・

いい子にしていれば、きっと母は戻って来る・・・
そう思っていたのは事実・・・

しかし・・・
朝からの、母のいつもと違う様子に、子供心に違和感を感じていた・・・




あんなにも青かった空が、夕日に赤く染まり始める・・・

御屋敷の門は、一度も開かれず、誰も出てこないし、入る人もいない。

幼かった僕は、心細くて、寂しくて・・・
それでも・・・唇を噛み締めて、泣くのを我慢していた。

泣いちゃだめだ・・・
いい子にしていれば・・・
きっと母さんは・・・


戻ってこない・・・どこかでそう理解していながらも・・・
それでも、もしかしたら・・・と、微かな期待にすがっていた。


しかし・・・
赤く染まった空が、闇に染まる頃・・・

期待は失望に変わっていた。

そして・・・幼い心には、圧倒的とも言える絶望に・・・




『僕は・・・捨てられた・・・』




いつもは、すぐ怒るし・・・
すぐ叩くのに・・・

今日は朝から、今までに無かった程、優しかった母・・・

新しい服・・・
新しい靴・・・
新しい帽子・・・

すべてがいつもと違っていた。



母が、本当は優しい人間だって事を僕は知っている。

母が僕を叩くのは、悲しすぎるからだって事も・・・

いつも、いつも僕を叩いた後に、母は僕を抱きしめた。

「ごめんね・・・夏樹・・・ごめんね・・・」

泣きながら謝ってくれた。

だから、僕は母の事が本当に大好きで、大好きで・・・

だから・・・

ここで、待っていなさいって言われたから・・・

母さんに嫌われないように・・・
いい子にして待っていたのに・・・


本当は、迎えに来て欲しかったんだ。

母さん・・・


でも・・・
こんなに暗くなっても、母さんは来ない。

そうなんだね・・・母さん・・・
もう、僕みたいな子はいらないんだね・・・

それが、わかってしまったから・・・
悲しくて、どうしたらいいのかわからなくて・・・

気がついたら、僕は大きな声で泣いていた。

あんなに泣かないように我慢していたのに・・・

どんなに泣いても・・・もう仕方がないって、心のどこかで思っていたのに・・・


暗いのが怖かった・・・
一人が寂しかった・・・

そして何よりも悲しかった・・・


どうして?・・・
どうして、母さんは僕がいらなくなったの?・・・


悲しくて、悲しくて・・・

どうしようもなく悲しくて・・・

僕は泣いた。

途方にくれて泣きじゃくった。







「どうしたんだい?・・・」

男の人の声・・・

優しい声だった。

気が付くと・・・門が開いている。

その人に・・・
ふわって、頭を撫でられて・・・

僕は、母を思い出して泣いた。

泣いている僕をあやすように、その人は抱きしめてくれた。

僕の背中を優しい手つきで撫でながら・・・

そのぬくもりに包まれているうちに、僕は泣き疲れて、いつしか眠っていた。

母さんとはまた違った、いい香りに包まれて・・・





目が覚めた僕の前には、その人の優しそうな笑顔があった。

「目が覚めたね?・・・今日から夏樹は、この家の子供になるんだよ。」

そういってその人は、僕をもう一度ぎゅって抱きしめてくれた。


そう・・・
この人が、この西条家の若き当主であり、この屋敷の主である「誠司兄さん」・・・

そしてこの時が・・・
まだ幼かった僕と、誠司兄さんとの出会いだった。





それからの僕は・・・

それこそ兄さんに愛され、甘やかされて育ってゆく。
兄さんが、お屋敷に居るときには、僕は何処でも着いて行った。

「だっこ・・・」

僕が甘えたように言うと、兄さんは決して嫌がらずに抱き上げてくれた。
僕は、兄さんの肩越しに見える、普段より遥かに高い景色が、大好きだった。

そんな兄さんの優しさに包まれて、次第に母さんの事も忘れる事が出来た。

もしかしたら・・・
今まで生きてきた中で、最も楽しかった時だったかもしれない。


そう・・・
あの日・・・

あんな事が起こるまでは・・・








昔の記憶は、僕を切なくさせ

思い出は、今の現実から逃避させてくれるけど

夢から覚めるように、我に返れば・・・

そこにあるのは
冷たい現実・・・

だから僕は、記憶にすがりつく

記憶だけが安らぎを与えてくれる



確かに・・・
人の記憶とは・・・
あやふやなものかもしれない

時には・・・
現実にあった事なのか・・・夢だったのか・・・
はっきりしない事さえあるだろう

それでも僕にとって・・・
あの記憶だけは、絶対に確かなものだ・・・

まだ幼かった僕を、優しく抱きしめてくれた・・・
誠司兄さんの体温だけは・・・

忘れる事なんて、有りはしない・・・



遠い・・・
遠い・・記憶・・・

僕の記憶の中には、いつも兄さんが居た

優しい、優しい兄さん・・・
僕を甘やかし、可愛がってくれた

僕は、そんな兄さんが、大好きだった







お願い・・・

昔みたいに・・・

もう一度だけ・・・
抱きしめてくれたら・・・


他には


何もいらないのに・・・




PR
since 2009/01/17~
ぱちぱち♪ーー更新履歴ーー
★--更新履歴--★
2009,06,21

素敵サイトさま、1件。1月31日。じゅん創作、運命は、奪い与える。本編、番外。全掲載完了。
ただいま、運営テスト中
かにゃあ♪
メインメニュー
goannai
goannai posted by (C)つきやさん
猫日記、ポエム、絵本など。
プロフィール

引きこもり主婦、猫好き、らくがき、妄想駄文作成を趣味。
ブログ内検索
P R
忍者ブログ [PR]