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あなたは、忽然と姿を消した。
あの時から、俺の時間は動く事がない。
誰も知らなかった。
中等部を卒業後、あの人が留学する事になっていた事を
俺自身知ったのは、あの人が遠い異国へ旅立った後。
連絡を来るのを待った。
だけど、一度も連絡はなかった。
はがきも、メールも、電話さえも。
どうしてだろう。
考えてみた。
どうして、俺に何も言ってくれなかったんだろう。
考えた。
今まで、過ごした時間はなんだったんだろうか?
あの人の自宅に電話をかけても出るのはお手伝いさんばかりで・・・
仲のよかった先輩達に、聞いてみても・・・
誰も、何も知らなかった。
俺は、あの人の側にこれからもいれる。
そう思ってたんだ。
中等部を卒業して、あの人が高等部へ行ったとしても高等部の校舎は隣で、だから俺は・・・・
何も変わらないと、今までと同じようにあの人の側にいられると思ってた。
俺は、あなたの側にいられるだけでよかった。
それだけで、よかった。
あなたの近くにいられるのは、一握りの人間だけ。
その中に、自分が入っている。
それだけでよかった。
他には、何も望まなかった。
あなたが、俺を呼ぶ。
少しトーンの高い声が好きだった。
「巧、お前はどう思う?」
俺は、口下手だから。
気の利いた返事を返せることなどなかった。
それでも、あなたは俺を側においてくれた。
あなたとの登下校。
時折振り返って、俺の姿を確認するあなた。
廊下ですれ違ったりする時に、俺を見つけると・・・
いつもは皮肉な笑みを浮かべる口元がほんの少し綻ぶ。
そんな、他の人にはわからない変化。
それに、気がついたときの至福。
我がままで、傲慢だと思われているあなた。
だけど、本当は誰よりも繊細で傷つきやすい心を持つあなた。
そんなあなたが、好きだった。
俺は、あなたの側にいられるだけでよかった。
他には、何も望まなかった。
ずっと、あなたの側にいたい。
それだけだったのに。
この時間がずっと、続くと思ってた。
だけど、あなたは俺の前から姿を消した。
終