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僕と成久の出会いは、就職の時だった。
高卒で働き出した僕と、大卒で働き出した成久は同期入社だった。
僕たちは、すでに新入社員の研修会で意気投合し仲良くなった。
僕が総務、成久は営業と、互いの配属先は違っていたが、
僕達は時間を作っては映画を見たり、飲み歩いたりしていた。
ただ語り合うだけで楽しくて、いつしか時を忘れてしまう。
だから、ついつい終電を乗り過ごしてしまうこともあった。
そんな時いつも、成久はタクシーで家まで帰っていた。
僕は、タクシー乗り場でいつも見送っていた。
見送りながら僕は内心では、お金がもったいないなと思っていた。
何故なら僕のアパートは会社のすぐ側にあったのだから。
( 電車が無いのなら、僕の部屋へ泊まっていけば? )
たった一言だけ言えばいい。
簡単な事だった。
でも僕は、その簡単な事をずっと言えずにいた。
僕は、自分の「性癖」の事で長い間悩んでいたからだ。
だから、言い出せずにいた。
そんな日々が一年ほど続いた頃だろうか。
僕は、成久に会うのが辛くなってきていた。
そう・・・
どんどん成久へと惹き付けられていく・・・
そんな自分の気持ちには、とっくに気がついていた。
声を聞くだけで胸が高鳴る。
まるで、恋してるみたいだ。
そして、それこそが僕の「性癖」だった。
同性に恋をするなんて・・・こんな気持ちはおかしい。
僕は、自分の想いを否定しようと躍起になっていた。
僕が感じているのは、友情だ。
そう言い聞かせようと必死だった。
それなのに、会社ですれ違うだけで、鼓動が跳ね上がり、顔が赤く染まる。
意識しないようにすればするほど、自分と成久の違いを意識してしまうのだった。
広い肩幅・・・
二重で大きな目・・・
意思の強そうな顎のライン・・・・
大きな手・・・
いつしか僕は、成久を避け出した。
そうするしかなかったのだ。
軽蔑されたくなかったから・・・
彼にだけは・・・
僕達には、もともと共通点は少なかった。
成久は、大学出のエリートコースの人間で・・・
反対に僕は高卒の事務職で、エリートなんて程遠い。
だから、避けることは簡単だった。
でも、成久はすごく戸惑っていた。
声をかけても誘いにのらない僕を、初めは不思議そうに、
そして、だんだんと苛立ちを含んだ瞳で僕を見るようになった。
その瞳に、責められているような気がして・・・
僕は、ついに成久の瞳さえまともに見る事が出来なくなってしまった。
あれは、僕が残業を終え、会社を後にしようとした時だった。
廊下の前方から成久が歩いてくるのが見えた。
気が動転してしまい、咄嗟に逃げ出す僕。
でも、成久は追いかけてきた。
逃げる、追う。
どれぐらい逃げ回っていたのかさえわからない。
広い会社の中を、僕は走った。
走って、走って・・・やがて息苦しくなって僕はその場に座りこむ。
目の前に、影がよぎったかと思うと腕を掴まれた。
腕に大きな手が食い込む・・・
すごい力だった。
「痛い・・・」
そう言っても、成久は僕の腕を掴む力を緩めようとはしなかった。
成久は、低い声で聞いた。
「何故、俺を避ける?」
「・・・・」
僕は、どう答えていいかわからずに黙りこむ。
成久は、もう一度尋ねた。
「俺が何か、汀の気に障ることをしたのか?」
「何も・・・」
そう、何もしていない。
気に障ることなどない。
ただ、僕自身がおかしいだけだ。
「じゃあ、何で!!」
悲痛な声に聞こえた。
僕は、うつむいていた顔を上げて成久の顔を見た。
久しぶりにまともに見た成久の顔は、悲しそうで苦しそうだった。
胸が痛い・・・
でも、どうして言える?
好きです・・・
異性に恋をするように、あなたを想ってます・・・
そんな事、言えるはずがない。
だから、僕は押し黙った。
成久も、何も言わない。
沈黙が、痛い。
どれだけ、そのままでいたのかはわからない。
「くそっ!・・・」
成久が呟き、僕は、抱きしめられた。
息が出来ないほどきつく。
僕は、驚きのあまりに何も言えずにされるがままだった。
耳元で成久の声がした。
「逃げないのか?・・・嫌じゃないのか?・・・
何も答えないなら・・・俺は、自分に都合のいいように取るぞ・・・」
背筋が甘くしびれた。
僕は、成久の背中に腕をまわした。
好きです・・・
言葉にはならなかった。
言葉に出せなかった。
思えば、すでにこの時、破局は予想できていた。
いつか、別れは来る。
成久は結婚するだろう。
彼は、僕なんかと違ってエリートだ。
結婚しなければならない人間だ。
それは始めからわかっていた。
でも、それでもいいと思った。
別れがくるまででいいから・・・
僕の側にいて欲しい・・・
そして、その夜・・・
僕は成久に抱かれた。
激しく抱きしめ、キスをされた。
そのキスは、とても優しくて・・・
僕は、泣いた。
いつか、来る別れを思って・・・
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