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学校から帰ってきてまっすぐに、お兄ちゃんの部屋を覗いた。
でも、お兄ちゃんはいなかった。
お母さんに聞いたら、亜美ちゃんと出かけたって言った。
亜美ちゃんは、お兄ちゃんの彼女の名前。
お兄ちゃんに、惚れこんだ亜美ちゃんがお兄ちゃんを口説き落としたらしい。
これはこの前に、網ちゃんが僕に言ってた事だけど、僕にはいまいち意味がわからない。
その時、亜美ちゃんは僕ににっこりと笑いかけて言った。
「だから、和樹君も協力してね。」
協力って、何をするんだろうって思ってたけど。
特に、今の所ないみたい。
でも、お兄ちゃん・・・どうして出かけるかな・・・・
僕との、約束覚えているのかなあ?
僕は、少し不安になったけど・・・まだ、夕方までには時間があったしお兄ちゃんを信じる事にした。
する事もなかったから、僕はいつもなら後回しにする宿題を済ませてしまう事にした。
宿題が終わって、時計の針が6時半を回ってもお兄ちゃんは帰って来なかった。
玄関の前に、座り込んだままの僕に・・・
時計の針が、7時を回った時点でお母さんが言った。
「かずくん、仕方がないわよ。お兄ちゃんデートなんだもの・・・・」
「だって、毎年連れて行ってくれるって・・・・」
「かずくん・・・・」
「だって、昨日も約束したもん。」
どうして、約束したのに・・・・
約束を破るんだろう?
毎年見に行くって・・・・
明日も、連れていってやるからって・・・・
言ったのに、言ったくせに・・・・
僕は、だんだん悲しくなってきた。
気がつけば、お母さんにすがりついて泣いていた。
お母さんは、僕を抱きしめながら言った。
「お兄ちゃんは、デートに夢中で忘れちゃったのね。
でもお兄ちゃんを許してあげようね。」
「どうして、嘘付いたのに?」
「もう少し、大きくなったらかずくんにもわかるかな。」
「わかんない!!」
だって、僕は嘘は付かないもの。
ぐしゃぐしゃになった顔で、僕はお母さんに言った。
お母さんが、困った顔をしてる・・・・
僕が、させてしまったんだって思った。
余計に、僕は泣きたくなる。
その時。
玄関のドアが開いてお兄ちゃんと亜美ちゃんが入ってきた。
二人とも、楽しそうに笑ってる。
僕は、何がそんなにおかしいんだろうって・・・思った。
人との約束やぶったくせに・・・・
「お兄ちゃんなんか、大嫌い!!」
僕は、お兄ちゃんにそう言った。
お兄ちゃんと、亜美ちゃんは驚いたように僕を見てた。
僕は、そのまま自分の部屋に駆け込んだ。
もう、お兄ちゃんと約束なんかしない。
お兄ちゃんなんか、大嫌い。
お兄ちゃんが、ドアを叩きながら何か言ってた。
耳を塞いでも、お兄ちゃんの声は聞こえてくる。
、
僕は、お兄ちゃんの声が聞こえない。
ベランダに出た。
花火の上がってる音が聞こえて僕は、空を見上げた。
でも、僕の目には月しか映らない。
せいっぱい、背伸びしてみたら・・・
やっと、かすかに花火が見れた。
僕の、視界の中央には月。
視界の端には、綺麗な花火が映った。
これは、僕の記憶。
あれから、僕はお兄ちゃんとは口を聞かなくなった。
2
「お兄ちゃん、大嫌い!!」
その言葉を言われた日、俺は弟との大事な約束を忘れていた。
亜美は、和樹の機嫌はすぐによくなると俺を慰めてはくれたが・・・
実際には、あれから弟の和樹は俺と話さなくなった。
俺は、どうにかして機嫌を直してもらおうと思って努力してみた。
でも、どんな事をしても、どんな事を言っても・・・・
和樹は、俺とは口をきいてくれなかった。
そして、今年も花火大会の日がやってきた。
朝食を取っている、和樹に俺は聞いた。
「和樹、花火大会一緒にいかないか?」
和樹は、黙って俺の顔を見ていたが・・・・
こりもせずに、あれから毎年誘う俺を可哀相だと思ったのか・・・
「いいけど・・・」
と言った。
初め、俺は聞き間違えじゃないかと思ったぐらいだ。
何しろ、5年目にしてやっと、チャンスが回ってきたんだ。
「でも、6時に家に居なかったら先に行くから。」
和樹は、そう言うとぷいっと出て行った。
お兄ちゃんと、約束をした。
でも僕は、約束が守られるなんて期待なんかしなかった。
あの時以来、僕はお兄ちゃんを信用していないから。
その前に、口をきいてさえいないけど。
最低限のことは、話はするよ。
でも、それだけ。
あの時以来、僕とお兄ちゃんは他人みたいだった。
初めは、約束を破られて悔しくて、口をきかなかっただけだった。
そのうち、何かと僕の機嫌を取ろうとするお兄ちゃんがうっとうしくなってきて無視するようになった。
そうしているうちに、相談したいなって思う事もたまにはあったけど・・・
今更、話など出来ないって思って話さなかった。
それに、悩みなんて時間がたてば解決してたし・・・・
それでも、時々は寂しいなって思った。
一緒の家に暮らしているのに、口をきかないなんて・・・
ずっと、お兄ちゃんべったりだった頃の僕だったら・・・
一日ももたないだろうね。
泣いてるよ、今ごろ。
そういえば、亜美ちゃんは僕を嫌いらしい。
最近、わかったことなんだけどね。
お兄ちゃんが、僕の事ばかり気にするのが嫌なんだろうって思うよ。
でもね、僕のほうが亜美ちゃんの事嫌いになったのが早かったんだ。
あの日、何が一番許せなかったって・・・
お兄ちゃんと、笑いながら入ってきた亜美ちゃんの手がね。
しっかりとお兄ちゃんの腕に巻きついてた事なんだもの。
だからね、今日は賭けでもあるんだ。
だって、お兄ちゃんは忘れてるみたいだけど・・・
僕は、知ってる。
今日が、亜美ちゃんの誕生日だってこと。
お兄ちゃんは、どっちを優先するんだろう?
僕か、亜美ちゃんか・・・・
楽しみだな。
終り