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誰でもいい・・・
声を聞かせて・・・
誰でもいい・・・
僕の声を聞いて・・・
僕は、携帯の短縮ダイアルから、適当に一人選ぶ。
数回のコール・・・
相手の声がする・・・
少しホッとする・・・
誰でもいい・・・
孤独を癒してくれるのなら・・・
今では小学生でも、携帯電話を持っている。
みんなが持っていて当たり前。
だから最近、街で電話ボックスを見かける事が少なくなった。
だから僕も、携帯を持っている。
なぜ?
なぜって・・・
みんな持っているから。
男友達や、女友達・・・
みんなが持つようになったから。
自主性がない?・・・
そうかもしれない。
そう、僕は自分の主義主張というものがあまりない。
それが悪い事?
僕は、誰とでもうまくやっていける。
誰とでも仲良くなれる。
それでいいんじゃない?
携帯を持っていれば・・・
いつでも・・・
どこでも・・・
すぐに誰かの声が聞ける。
だから
携帯を持っていると安心するんだ。
すぐに誰かと、繋がれる・・・
そう思えるから。
でもたまに、携帯に縛られているんじゃないか?
って考えてしまうときもあるんだ。
僕にも、話したくない時や、出掛けたくない時もあるからね。
でも、後で寂しい想いをするより、
誰かと繋がっている方がいいかなって思うんだ。
確かに、家でゆっくりしたい時に携帯で呼び出されと、
「ああぁ・・・またか・・・」
って思う時もある。
それなら、行かなきゃいいって?
僕は・・・断りたくても、結局断りきれないんだ。
人に嫌われるのが恐いから・・・
携帯が鳴らなくなるのが恐いから・・・
僕は、あの人が羨ましかった。
嫌な事は、嫌だと口にする事の出来るあの人が・・・
前に一度、あの人に携帯を持てばいいと勧めたことがあった。
「必要ないね・・・たいした用事もないのに・・・
くだらない事ばっかりしゃべってる奴って、馬っ鹿みてぇ!」
僕は、ショックだった。
「どうして、そうはっきりと何でも口に出せるの?」
あの人は、不思議な顔をしながら言ったよね。
「嫌なものは、嫌だから仕方がないだろ。嘘をついてもいつかはばれるしね。」
納得できない僕は、食い下がったよ。
「君は、人に嫌われても平気なの?」
すると、あの人は困った顔で聞き返したよね。
「それで嫌われるのなら、そこまでの相手だって事だろ?
お前は、無理して人に合わせてばかりいて・・・息苦しくないのか?
みんながお前のこと、何て言ってるのか知ってんのかよっ!」
僕は、何て答えたのか覚えていない。
でもどこかでわかってた。
嫌と言えない自分への苛立ち。
そして・・・
周りから八方美人って陰口を言われている事への不満。
確かに息苦しかった。
でも寂しい想いをしたくなかったから・・・
ただ人から嫌われるのが怖かっただけなのに・・・
僕は泣いたよ・・・
悲しくて・・・
寂しくて・・・
あの人の顔がぼやけて見えていた。
いつでもすぐに、あの人と繋がれたら・・・
どんなに素晴らしいだろう・・・
そう思ったんだ。
だから言わなくてもいい事を言ってしまった。
嫌われた・・・
一番嫌われたくない人に・・・
もう、その場から逃げ出すしかなかった。
「ちょっと待てよっ!」
背中から声が聞こえていたけど・・・
もう耐えられなかった。
あの人の前から消えるしかない・・・
それから僕は、携帯を解約した。
もう、誰ともかかわり合いたくなかったから・・・
かかわり合うのが恐かったから・・・
ある日、僕の部屋を意外な人が尋ねてきた。
あの人だ・・・
僕は慌ててドアを閉めようとした。
せっかく立ち直ろうとしているのに、また何か言われたら死んじゃうかも。
「待てっ、ちょっと閉めるなよっ・・・」
あの人はつま先でドアを押さえてしまった。
「このあいだは、すまなかった。
俺さぁ・・・お前が、前に言ってた事が少しわかったよ。」
「何・・・?」
「携帯持ってると、安心できるって。」
「え?・・・・」
「誰かと繋がっているって思えるから、安心できるって・・・そう言ったろ?」
「・・・・・」
「俺は・・・何も言わなくても、お前とは繋がっているって思ってたんだ。
それなのに誰とでも、仲良くなろうとするお前が気に入らなかったのかもしれない。」
「・・・・・」
「でも、この前お前は泣いただろう?俺は思ったんだ。
もしも・・・俺の知らないところでお前が泣いてたら・・・どうしようって・・・」
あの人は、照れくさそうに、ポケットから真新しい携帯を取り出した。
「ああっ・・・」
「だからそういう時には何時でもいい・・・電話をしてこいよ。」
「えっ?」
「だから、これはお前専用なんだって。」
「あ・・・・」
「俺の言っている意味わかってる?」
僕は、君にすがりついて泣いた。
子供みたいに・・・
君は、黙って僕の背中を撫でてくれる。
それで僕は救われる。
昔も、今も。
君は僕を救ってくれる。
僕は、君のそばでは楽に息ができる。
安心できる。
この安心感は何だろう?
僕には、もうわかってる。
「他人が、お前の事を何て言っていても、ほっときゃいいさ。」
それからあの人は、僕の目を覗き込んで、忘れられない一言を、言ってくれた。
「俺はお前が好きなんだ・・・お前には寂しい想いは絶対させない・・・だから・・・なっ?」
僕は、何も言えずにうなずいた。
初めてキスをしたのは、記念すべきこの日だったね。
そして、僕は新に携帯を持った。
あの人だけに繋がっている携帯をね。
だから僕は、もう寂しいとは思わない。
ボタンを押すと・・・
あの人の声が耳に流れてくる。
「やあ・・・」
静かな低音。
僕だけに囁かれる優しい声。
寂しくなって、声が聞きたくなったら・・・
ボタンを押す。
するとすぐに繋がる。
あの人と僕だけの携帯電話。
僕達だけを繋ぐ・・・ホットライン。
終わり。