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少し長くなるが、ここで23年前の「因縁」について、触れておかねばなるまい。
それは、加賀見と須賀はもちろん・・・
たくさんの人達の運命を変えた、止める事の出来ない刻の激流だった。
23年前・・・
現在では、「神醒会」の総長は、二代目である須賀 芳信が率いているが、
当時は、臣人と和志の実の父親である「榊原 要一」が初代総長を務めていた。
そして・・・
今では想像すらし難しいが、その頃の神醒会は「関東双龍会」に所属する直系組織だったのだ。
その当時、関東双龍会の中では、四代目総長の座をかけて、
二人の候補が、激しい駆け引きを繰り広げていた。
その候補の一人が、神醒会の「榊原 要一」であった。
彼は、前述したとおり、臣人と和志の実父である。
そして、浮浪児同然だった須賀 芳信を、拾ってくれた恩人だ。
当時15歳だった須賀は、その頃から幼い兄弟達の兄貴分として、良く面倒をみていたという。
そして、もう一人の四代目候補は、当時、関東双龍会の傘下では、
最大の組織だった「浅野組」の「浅野 丈太郎」である。
結果として、跡目を受けて、関東双龍会四代目総長の座に就いたのは、浅野 丈太郎だった。
これを不服とした榊原 要一は、神醒会を、関東双龍会から脱退させてしまう。
この時、浅野側としても、榊原側ともっと腹を割った話しをすれば良かったのかもしれない。
しかし、体勢固めを急ぐ浅野は、懲罰として全国の親分衆に、榊原 要一への「絶縁状」を回す事となる。
「絶縁」とは、極道の世界では最も厳しい処分で、
「破門」などと異なり、二度と組織に戻ることは許されない。
そして、何よりも厳しかったのは、絶縁された者を、拾おうとする組織は、
絶縁した側の組織を、敵に回す覚悟が必要となる事だった。
浅野 丈太郎にしてみれば、関東双龍会にたて突く組織など無いだろうと踏んでの処分だった。
その頃、西日本最大の組織「山内組」は、全国制覇の野望のもと、
鉄壁の守りを誇る関東に対して、何とか攻略の足場が欲しいと考えていた。
そして、山内組 三代目組長「本宮 鉄雄」は、かなりのリスクを覚悟の上で、神醒会を傘下に治める決断をする。
跡目問題でドタバタしている、関東双龍会の足元をすくおうというのだ。
神醒会側としても、このままでは関東双龍会に潰されるのを待つだけだったから、
バックに山内組が付いてくれるのは、まさに渡りに船だったのだ。
こうした事情の中「本宮 鉄雄」と「榊原 要一」の間で、電撃的ともいえる親子の盃が交わされた。
慌てたのは、関東双龍会である。
誰も相手にするはずが無いと、たかをくくっていたところに、
突然・・・西日本の雄「山内組」が出てきたのである。
しかも山内組系となった神醒会の本拠地は、関東の喉元「静岡」だった。
まさに、神醒会は、関東双龍会の喉元に突き付けられた、鎌首となったのである。
しかし、この危機感が皮肉にも関東双龍会を浅野 丈太郎のもとに結束させるきっかけとなった。
双龍会側の行動は、予想外に早く、神醒会側の体勢も整わぬうちに、その拠点を次々と襲撃した。
後に「静岡の40日抗争」と呼ばれる争いの幕開けであった。
最初の襲撃で、神醒会側は7人にも及ぶ死者を出していた。
そして、奇襲を成功させた双龍会側は、人的な損害はまだ無かった。
その後、双方とも相手の襲撃と、警察の摘発をかわすために地下に潜るが、
空の事務所に銃弾が打ち込まれるような発砲騒ぎは、連日のように起きていた。
軍資金などの面で、神醒会を後方からバックアップしていた山内組は、
思うような戦果が得られずに、苛立ちを感じ出していた。
そして、痺れを切らした本宮 鉄雄組長は、山内組本隊の組織を動員し、
ついに浅見 丈太郎の隠れ家である愛人宅をつきとめた。
その情報を得た神醒会幹部数人は、その近くに部屋を借り、10日間張り込んだという。
それは、都心でも雪が舞うほどの寒い夜だった。
関東双龍会の迎えの車が、愛人宅の玄関前に止まる。
二人の護衛が外に出て当たりを伺っている。
そして、ついに浅見 丈太郎がその姿を見せる。
その時だった。
一台の車が音も無く近づいた・・・
と思った瞬間・・・
窓から二人のヒットマンが、浅見めがけていきなり発砲した。
閑静な住宅街に、闇を切り裂く銃声がこだまする。
神醒会の二人の刺客は、弾倉が空になるまで、合計12発、全弾を発射した。
猛スピードで走り去る車・・・
一人の護衛は、二発の弾を受けて重傷。
浅見は奇跡的に無傷だった。(一説には左腕に弾を受けたともいわれている)
もう一人の護衛は、仁王立ちとなって浅見を守り、全身に6発の銃弾を受け即死だった。
この時死んだ護衛が、加賀見 嘉行の実父だったというのは、この業界では有名な話しである。
この襲撃を境に、再び抗争は激化し、神醒会側に二人、双龍会側に一人、合計三人の死者を追加する。
そして、山内組が本格的に動き出すとの噂が流れ、東西総力を上げての全面戦争となって、
全国に戦火が飛び火するのは時間の問題と思われていた。
しかし、この東西大組織の激突を、何とか阻止しようと、一人の男が仲裁を申し出た。
戦前から続く四国の名門博徒集団、村政一家の流れを受け継ぐ、
「村政連合壱心会」総長 柳沢 慎三郎である。
村政連合は、決して巨大な組織ではなかったが、組の格式、系譜、貫禄、発言力、
すべてにおいてこの世界では一目置かれる重鎮である。
それゆえに、どこの広域組織にも属さず、業界のご意見番のような存在を維持していた。
そして・・・
仲裁に入った柳沢の顔を立て、粛々と「手打ち」の儀式は終了する。
そして、同時に関東双龍会の浅見 丈太郎と、山内組の本宮 鉄雄の、
五分と五分の兄弟盃がかわされた。
これによって、東西の大組織は、対等な兄弟分となったのである。
しかし、手打ちの内容は、ある意味、双方とも納得し難い条件だった。、
力が拮抗する組織同士の場合、どちらかでも満足できる手打ちなど有り得ない。
関東双龍会側にしてみれば、その総長の命を直接狙われた事は、許せる事ではない。
そして何より納得し難かったのは、絶縁状を回していたにもかかわらず、
本宮 鉄雄と榊原 要一の親子盃が、御咎め無しとなった事であった。
これにより、神醒会が山内組系のまま、静岡に存続する事が、動かす事の出来ない事実となった。
神醒会にしても、こちらが幹部を含めて9人もの死者を出したのに、
向こうは、下部構成員2人の死者を出しただけで手打ちになってしまった。
そのうえ若い幹部数人が、浅見襲撃に関わったとして、根こそぎ逮捕され、
神醒会の屋台骨はガタガタになってしまったのだ。
そして、神醒会が、山内組系として残ったとはいえ、浅見と本宮が五分の兄弟となった今、
山内組の関東進出の野望は、以前より難しくなったと言えた。
榊原 要一は、悩んでいた。
残った幹部は年寄りばかりで、神醒会は極度な人材不足に陥っていたからだ。
要一が、準構成員として須賀 芳信を徴用したのはこの頃である。
奇しくも・・・
孤児となって、浅見に拾われた加賀見 嘉行も、この時、須賀と同じ、15歳だった。
加賀見がこの後、どのように登りつめたかは、前述したのでここでは省略しよう。
さて、神醒会だが・・・
要一は、須賀にたいそう目をかけて、いつも側に仕えさせていた。
須賀も、要一の期待に応え、めきめきと頭角をあらわしてゆく。
そして、20歳になる頃には、若い組員を束ねる、リーダー的存在となっていた。
しかし、大変な事件が、神醒会を再び混乱に落とし入れる。
夜、一人で飲みに出た要一が、次の日の朝、川に浮ぶ水死体となって発見されたのだ。
双龍会の仕業か?・・・浮き足立つ組員達。
勝手な行動を慎み、落ち着いた対応を取るように主張する須賀。
それに対して、懲役から戻ったばかりの幹部の一人は、
徹底的な報復を呼びかけ、自分が跡目を継ぐべきだと主張する。
他にも、年寄りの幹部までが、跡目の候補に名乗りをあげ、
全く収拾のつかない、危険な状態になってしまっていた。
これに対し、この事態を重く見た山内組本家は、本宮組長自らが、
わざわざ神戸から静岡まで出向いて、混乱の収拾に当たった。
神醒会の組員達の注目は、本宮の言動に集まった。
いったい誰が跡目を継ぐのか?・・・
本宮は、神醒会の構成員全員を一ヶ所に集め、用意された幹部達の資料に目を通す。
そして、幹部リストにある者全員と、二、三、言葉を交わしていく。
「あかん・・・ロクな奴おらんわ・・・」
本宮は、神戸から連れてきた側近に呟く。もちろん関西弁だ。
溜息をつきながら、もう一度全員を見回す本宮。
ふと、ある男が目にとまる。リストには無かった男だ。
本宮は、つかつかと近づくと、その若い男の目の前に立った。
その男の顔を、鋭い視線で刺すように凝視する本宮。
男も本宮から目を逸らそうとはしない。
やがて口元に微かな笑みを浮かべた本宮は、その背の高い若者の肩を、力強くポンと叩く。
「決めたでっ!・・・こいつや・・・神醒会はこいつに任す。」
須賀だった。
先輩の極道達を押し退けての大抜擢だった。
この時の決断は、本宮にまつわる有名な逸話として、後世に長く語られてゆく。
本宮は何も聞かず・・・何も語らず・・・須賀の目だけを見て決めた・・・と。
「誰か、ワシの決定に文句ある奴、おるか?」
白髪交じりの・・・丸刈りに近い短めの角刈り・・・
貫禄十分・・・当時の日本で、実力、経験共に最も怖い極道である本宮の、有無を言わせぬ声が響く。
しかし・・・
跡目候補だった若い幹部がひとり・・・
怒りに顔を真っ赤にし、握り緊めた拳をブルブル震わせていた。
それを、鋭い視線で捕らえる本宮。
「こらっ若造・・・どうやら、おのれは納得でけへんらしいな・・・ああっ??」
何も答えない幹部。
「ワシに従えんのやったら、別にかまへんで・・・喧嘩したいんやったら相手したろか?
そのかわり、おのれ一人で山内組全部を敵にまわす覚悟せいやっ!」
「・・・・」
「わかってんのかっ? こらっっ!!・・・返事ぐらいせんかいっっ!!」
言うが早いか、本宮の鉄拳が若い幹部に炸裂する。
「け・・・決定に・・・従います・・・」
床に転がり、血の滲んだ口元を押さえ、従順の姿勢を示す若い幹部。
あたりは、水を打ったように静まりかえっていた。
まさに、鶴の一声・・・
神醒会の二代目が、若い須賀に決定した瞬間だった。
本宮は、若い須賀の事を、たいそう気に入った様子だった。
泣く子も黙るこわもてに、笑顔すら浮かべて話しかける。
「お前、歳はいくつや?」
「二十歳です。」
「若いな・・・まあ大丈夫や。ワシかて、それぐらいの時には、もうバリバリやっとったでな。
な~んも、心配する事あらへん・・・お前やったら出来る・・・
ワシの目に狂いはないで・・・絶対や。
それでも・・・もしどうしても困った事があったら、
いつでも言うて来いや。力になったるさかいな。」
本宮は、機嫌良く笑いながら、側近を呼び寄せる。
「今すぐ、盃の場を用意せいっ。こいつの気の変わらんうちに、きっちり型に嵌めといたる。」
親子の盃を交わし終わると、本宮は、始終上機嫌で、安心して神戸に帰っていった。
この後の須賀の働きには、業界でも目をみはる者が多い。
ガタガタになった神醒会の屋台骨を、何年もかけて再生し、徐々に力を貯えていった。
この頃の神醒会は、山内組内部でも、まだまだ外様として白い目で見られ、
須賀の苦労は並大抵なものではなかった。
影で本宮のバックアップが無かったら、組は潰れていたかもしれない。
組の再生に一段落した後も・・・
須賀のもって産まれた先見性と、本能的に世の中の風向きを察知する能力は、
極道の世界でもいかんなく発揮され、神醒会は急速に拡張してゆく。
中京地域から、北陸、関西と少しずつ支部を増やし、表の仕事にも積極的に進出し、
15年たつ頃には、山内組直参の中でも、屈指の勢力を誇るまでになっていた。
近年では、山内組の若頭に抜擢され、本宮の後継者は、須賀 芳信しかいない、
とまで言われ、山内組四代目組長は、事実上、須賀で決定しているとも言えた。
そして、現在・・・
本宮 鉄雄も、浅見 丈太郎も、引退を考える年齢となり、
東西の大組織が、兄弟としての関係を維持するためには、
後継者となる、須賀 芳信と、加賀見 嘉行との兄弟盃が、絶対に必要となってきていた。
回りの関係者も、根回しやら手配やらで、動き出していたところだ。
しかし・・・
そんな矢先に「和志殺し」はおきてしまった。
なぜ、この時期に・・・
須賀芳信は、苦悩していた。
あの「静岡の40日抗争」から、もう23年・・・
我々も・・・
そして加賀見も・・・
多くの人の運命を決定付けた事件だった。
今でもよく思い出す・・・
先代総長、榊原 要一の口癖・・・
『臣人も、和志も、ヤクザにゃあ向いてねえ・・・だからな、芳信・・・
おめえが、誰よりも強え男になって、あの2人を守ってやれ・・・』
自分にとっても、血を分けた兄弟よりも大事な者達。
しかし、そのうちの一人を、すでに亡くしてしまった。
このままでは、あの世に行っても、先代に合わせる顔が無い。
『お願い・・・和志の仇を討って・・・』
臣人の気持ちは良くわかる。
しかし・・・
本宮さんが何と言うか・・・
全面戦争になれば、日本中に弾丸が飛び交うだろう。
一般人が巻き込まれるような、市街戦だって起こりえる。
だから、簡単に戦争の決断など出来るわけない。
しかし、一番大事なモノは一つだけだ。
臣人・・・
お前だけは、命をかけて守る。
今では「東の龍 加賀見」「西の虎 須賀」と呼ばれるほど、突出した力を持つ二人。
この二人が激突したら、どちらが勝つか・・・
極道者の酒の席で、よく話題にあがるネタだ。誰もが興味を持ち、誰もが恐れる。
そして、結果は見えているのだ。
どちらかが、壊滅するまで、勝負はつかない。
あるいは、両方共が消滅するかもしれない。
いずれにせよ、日本全土の極道が、血みどろの争いに巻き込まれ、多くの者が死ぬだろう。
そして、大組織は弱体化し、裏社会は戦国時代となり、
中国マフィアなども台頭して、秩序の無い無法地帯になってしまう。
この国の極道にとっては、悪夢のようなシナリオだ。
しかし・・・
ほとんどの者が知らないところで・・・
東西の両雄が火花を散らす可能性が、決して夢物語とは言えないところまで・・・
事態は悪化しつつあった。
ただ・・・
須賀も、加賀見も・・・
全面衝突だけは避けるべきだ、と思っているのは、間違いの無い事実であった。
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