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汀の奴・・・
何処に逃げやがった?
なぜ俺から逃げるんだ?
あんなに会いたがったじゃないか・・・
そして、あんなに感じたじゃないか・・・
涙を流すほどに良かったんだろ?
産まれてから、一度も挫折を味わった事のない男だった。
会社経営者の独り息子として誕生し、欲しいものは何でも与えられて育った。
勉強も運動も、恋愛さえも、大した苦労もなくこなしてきた。
だから男は挫折を知らなかった。
外の世界で経験を積むために、父の会社じゃないところへ就職をしたが、
将来は、父親の会社をつぐんだと漠然と思っていた。
この男・・・「岡本 成久」が、汀と出会ったのはそんな時だった。
今にして思えば、初恋だったのかもしれない。
もちろん女なんかに不自由した事なんて、高校生の時から一度も無かった。
欲しい女は、手当たり次第にモノにした。
そんな成久が、初めて心の底から惹かれたのは、汀という男だった。
その少女のような男に避けられて、成久は初めて自分の想いに気がつき愕然とする。
思い違いだ・・・
そんなはずがない・・・
女みたいだから・・・珍しいから、抱いてみたいだけだ。
成久は、そう自分の気持ちを偽った。
その後の成久は、知らず知らずのうちに、汀にのめり込んでゆく。
自分でも気がつかないうちに、深みにはまっていった。
しかし、いずれは父の決めた女と、結婚をしなければならない。
でも、成久にとって、そんな事はたいした問題では無かった。
結婚しても、汀とは別れる気などないからだ。
どうせ、男同士で結婚出来るわけもないのだから、お互いに楽しくやればいいじゃないか。
ところが、汀の方から突然の別れを切り出され、成久は混乱する。
しかも、別れ話の舌の根も乾かぬうちに、他の男の腕に抱かれる汀を見てしまった。
扉を開けると・・・屈強な男に抱かれていた汀・・・
遊びだったんだ・・・
他の男をすぐ咥え込みやがって・・・
所詮、お前はそういう奴だったのか。
お前なんか、俺につりあうわけ無かったんだ。
途端に気持ちが冷めてしまう成久。
いや違う・・・
無理矢理そう自分に納得させようとしていた。
自分でも気が付かない、無意識のうちに・・・
この時から、成久の転落は始まっていたのかもしれない。
始めはゆっくりと・・・
気付かない程のスピードで・・・
しかし、徐々に加速度がつき・・・
どうにもならない速度で堕ちてゆく。
幸運の女神は、成久からそっぽを向いたのだ。
始めは仕事上の簡単なミスだった。
そんな事が続くと、鬱憤を晴らすように毎晩のように女を漁る。
何処かが違う・・・
似たような事をしているのに、何故か心が満たされない。
環境を変えようと、父の進めるまま結婚に踏み切る。
これがまた失敗だった。
自分と同じように、何不自由無く育った、高慢な女。
始めから合うはずが無かったのだ。
その上、バブルのつけが回っていたのか、突然父の会社が傾き出す。
隠していた巨額の負債が明るみに出ると、父は社長を解任されてしまう。
その上、経営責任を問われ、裁判を起こされる始末だ。
既に、汀と別れて2年半ほど経っていた。
この頃には、妻はとっくに実家へ帰ってしまって、成久は一人だった。
そして、頻繁に汀のことを思い出すようになっていた。
もう一度抱いてみたい。
きっと満足できるに違いない。
妻以外の女も、何度も試してみた。
しかし、どうしても違うのだ。
思えば、今までの女達は、自分を飾る道具でしかなかったのだろう。
もちろん女のほうでさえ、そう思っていたに違いない。
汀の時は、そうではなかった。
屈服させるような・・・
捻じ伏せるような・・・
相手の気持ちまでも支配するような・・・そんな満足感があった。
もう一度、汀を手に入れたい。
でも、自分から連絡を入れるのは、あまりにも癪(しゃく)だ。
プライドが許さなかった。
とにかく、今の汀の近況が知りたかった成久は、この頃、私立探偵を雇って調べさせた。
どうやら、また別の男のところに転がり込んでいるようだった。
「榊原 和志」・・・
ふん、高校しか出ていないくせに・・・
成久は、無性に腹が立った。
全ては、汀のせいだ・・・
節操の無い奴め・・・
虫も殺さないような顔をして、次々に男を変えやがって・・・
あいつと別れてから、歯車が狂い出したんだ。
許せない。俺の人生を狂わしたあいつ。
汀への愛しさとともに、日ごとに怒りが膨張してくる。
やがて、はけ口の無い「愛しさ」「怒り」は、熟成され、醗酵し、成久の精神を蝕んでゆく。
そして、成久は仕事で決定的なミスを冒し、会社を解雇されてしまった。
今更、父の会社に入れるわけもなく、成久の将来はここで断たれた。
もはや、無け無しのプライドさえ成久を止める事は出来なかった。
汀の元へ電話を入れるのは、すでに時間の問題だったのだ。
汀の知らない所で、破局は近づいていた・・・
ほら・・・
隠れてないで出ておいで・・・汀・・・
もう一度やり直そう・・・
いいだろ?・・・
3年ぶりだったのに、お互いあんなに感じたじゃないか・・・
何処へ逃げても絶対にまた見つけてやる・・・
俺にはもうお前しか残っていないんだ・・・
俺にはお前が必要なんだ・・・
そして、お前には俺が・・・
わかるだろ? 汀・・・
他の誰も代わりにはなれないんだ・・・
俺も・・・
お前も・・・
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