忍者ブログ エゴイスト9 てすと中MOON-NIGHT&LOVERS-KISS
       暇人作成妄想創作BL風文字屋主文書副絵詩色々
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 

 

 

 

汀という青年の身体が小刻みに震えだす。

暖房はすでに全開だ。

 


軽く汗ばむほど暖かいはずなのに・・・

青年の額に手を当てる加賀見。

 


まずいな・・・

 


熱が出てきたのは間違いなかった。

 


急げ・・・

 


加賀見は、青年の裸身にこびり付いている、体液や泥を拭き取り始める。

熱い湯に浸したタオルを、固く絞って、優しく丹念に拭いてゆく。

触られると痛いのだろう。

嫌がるように首を振る青年。

 

 

加賀見は、苦痛を与えぬよう、細心の注意を払いながら作業を続ける。

 

 


「・・・やめ・・・て・・・成久っ・・・」

 

 


嫌がるのは、痛さのせいだけでは無いようだった。

触れられる事、そのものを嫌がっていた。

 

 

 

「・・・こんなの・・・いや・・・だ・・・」

 

 

触れたところを避けるように身体が逃げる。

夢の中でも、陵辱が繰り返されているのだろうか。

 

 


「もう大丈夫だ・・・」

 

 

そう言いながら手を握ってやる。

 

 

「安心するんだ・・・」

 

 

言葉をかける。

 

 

 

青年は何も反応を返さず、ただ哀しそうに涙を流すだけだった。

 

 

 

 

 

 


ようやく身体を拭きおわり、傷の応急手当てを済ませると、

空いている寝室に運んで、毛布で何重にもくるむ。

どうやら震えは治まってきているようだ。

 

 

 

成久・・・

たしか成久だった・・・

 

 

 


数時間前、アクアから、この汀という青年を連れ出した男の顔を思い出す。

三年前と、幾分雰囲気は違っているが、あの時の男と同一人物だろう。

加賀見は、ベッドサイドのソファーに座り、こんこんと眠り続ける青年の姿を見つめていた。

 

 

 


「う・・・ん・・・・」

 

寝苦しそうに息をする声・・・

加賀見は慣れない手つきで、そっと青年の額にかかる髪をかきあげる。

そして、苦しそうな彼の表情を見ながら、

自分の行動を、どう自分に納得させるか、思案してみる。

どうしても適当な理由がみつからない。

みつからないまま、青年の顔をじっと見つめていた。

夜が明けるまで・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

覚醒は、緩やかに訪れた。

もう少し寝ていたい・・・

長い夢を見ていた。

どんな夢かは、はっきり覚えていない。

まどろみの中で一瞬思う。

夢で良かった・・・

 

 

 

 


しかし、心に刺さったままの、不安や恐怖。

本当に夢だったのか・・・

恐る恐る目を開けてみる。

高い天井が見えた。

見慣れたあの人の部屋ではない。

 

 

 


ガバッと起き上がろうとする汀。

 

 

痛っ!・・・

夢なんかじゃなかった・・・

 


身体に走る痛みによって、更に痛い現実を思い出す。

 


あれから・・・僕は・・・

 


慌てて部屋を見回す汀。


ここは何処だろう・・・

 

見た事もないような、大きなベットの上に居た。

さらっとした清潔なシーツ・・・

肌触りの良い毛布・・・

ルームライトの、柔らかい光に照らし出された広い部屋は、二十畳ほどもあるだろうか。

イタリア製と思われる高価そうな家具と調度品が並び、床には分厚い絨毯が敷き詰められている。

どこか違和感を覚えるのは、生活感が感じられないからだろうか。

人が、そこで生活を営んでいる雰囲気が希薄なのだ。

例えるなら、豪華なホテルのスウィートルームといった感じだろう。

ベットの直ぐ側には、床から天井までとどく大きな窓があり、

そのカーテンの隙間の向こうには、遠くまで続く夜景が広がっている。

 

 

 

今は夜なのか?

いったいここは?

慎重に記憶をたどる汀。

必死で走っていたところまでは、覚えている。

 

 


しかし、その後の事は・・・

 

 

 

 

よく見ると、パジャマに着替えさせられている。

軽く肌を滑るその感触は、シルクのものだ。

成久が残した陵辱の跡も、奇麗に拭き取られているようだ。

 

 

 

いったい誰が?

 

 

 

ドアの向こうから誰かの話し声が近づいて来る。

電話をかけているのだろう。

一人だけの声しか聞こえない。

 

 

 

『・・・・・・いいか、二度繰り返して言わせるな。調べろ。』

 

 

 

恐怖で身体がこわばる。

違う成久の声じゃない・・・

だけどどこかで、聞いたことのある声だ。

 

 


低くかすれた・・・特徴的な声・・・

何処か懐かしく、哀しい想い出とリンクしている・・・

 

 

部屋のドアが開き、その声の主が入ってきた。

 

 


あっ・・・

 


思わず声を上げそうになる。

がっしりとした、長身・・・

隙の無い身のこなし・・・

アクアで見かけた、エゴイストの香りの男だ。

 

 

 


「目が覚めたようだな?」

 

男が尋ねる。

 

 

 

「ここは・・・何処ですか?」

 

 


不安そうに口を開く汀。

 

 

 


「俺のマンションの客間だが・・・」

 


「・・・なぜ?・・・なぜあなたの家に・・・」

 

 

 

加賀見は、両手を広げて、肩をすくめて見せる。

 

 


「ウチの前に倒れていたから・・・拾ったんだ。

もちろん警察にも届けてはいない・・・あまり仲良くないんでね・・・」

 

 


まだ状況がよく呑み込めない汀に、加賀見が続ける。

 

 

 


「取りあえずシャワーを浴びてきなさい。高熱を出して一昼夜眠っていたんだ。

一応、身体はきれいに拭いておいたんだが・・・」

 

 

 

驚いたように汀が口を挟む。

 

 


「あ・・・あなたが・・・拭いてくれたんですか?」


「そうだが?・・・」

 

 

 

そっけなく答える加賀見。

 

 

 

「心配するな・・・何もしてやしない・・・」

 

 


見る見るうちに赤面してうつむく汀。

 

 

 


「す・・・すいませんでした・・・」


「気にするな・・・それより浴室に案内しよう。」

 

 

 

痛む身体を引き摺るようにベッドから降りる汀。

高熱で体力を失ったのだろうか、足元がふらつき転びそうになる。

 

 

 

あっ・・・

 

 

 

思うよりも早く、とっさに加賀見が抱き止める。

 

 

 

「すっ・・・すいませんっ!」

「大丈夫か・・・」

 

 

 

その瞬間に、汀ははっきりと思い出していた。

この声・・・

この香り・・・

この胸の固さ・・・

 

 

 

ああ・・・あの時の人・・・

何という偶然・・・僕は、またこの人に助けられたんだ・・・

加賀見の腕の中で、ひと時の安心感に包まれる汀だった。

 

 

丹念に身体を洗い、用意された新しいパジャマを身に付ける。

 

 

加賀見と名乗ったあの人は、自分の寝室へ行ってしまったらしい。

暗い面持ちで長い廊下を歩き、先程の部屋に入る。

ベッドサイドには、コートのポケットに入れていた、財布と携帯電話が置かれている。

ソファの上には、クリーニングされた汀の衣類が、ビニール袋に入ったまま置かれていた。

シャツはさすがに使い物にならなかったらしい。

 

 

 

一人だ・・・

情けないほど心細くなる。

寝なければいけないと、ベッドにもぐり込み、ギュッと目を閉じる。

 

 

 

 

追いかけてくる。

成久が、恐い顔で・・・

逃げても逃げても、追いつかれそうになる。

 

 

 


これは、夢だ。

いや、現実だ。

僕は、汚れた。

裏切ってしまった。

あの人に会う事はもう許されない。

 

 

 

どうして・・・

どうしてこんな事に・・・

何度も、何度も問い掛ける。

 

 

 


誰のせいでもない。

自分のせいだ。

 


ああ・・・嫌だ。

 


僕は、感じて無い・・・

感じたくは無かった・・・

 

 


それなのに・・・

巧みに追い詰められ・・・

屈辱の証を絞り取られた。

 

 

嘘だ・・・

嘘だと思いたい。

そんなはずがない。

 

 

 

これは、夢だ。

現実じゃない。

いいや、本当だ。

聞こえるんだ。

声が・・・僕を嘲笑う成久の声が・・・

 

 


好きだったのに・・・

好きだった?

僕は成久が好きだったのか?

本当に?

今ではとても信じられない。

 

 


僕が好きだったのは幻だ。

過ぎ去った過去の幻影だ。

 

 

 

今では痛いほどわかる。

本当に好きなのは「あの人」だったんだと・・・

 

 

 

でも・・・

もう遅い・・・

 

 

 

あの人に会いたい。

あの人にはもう会えない。

 

 

重なる声。

声。

幻聴。

闇だ、真っ暗だ。

ここに閉じ込められるんだ。

 

 

 


嫌だ。嫌だ。

誰か、僕を助けて・・・

 

 

 

こんな状態で眠れるわけもなく、ベッドの上に身を起こす汀。

あまりに寂しくて、テレビのスイッチを入れる。

暗い部屋の中で、ブラウン管の明かりがとても眩しく感じる。

深夜放送の笑い声が、どこか遠くの世界の事のように耳を通り抜けてゆく。

 

 

そんなに長く眠っていたとは・・・

もう二晩も帰ってないし、連絡さえ入れていない。

あの人は、きっと心配しているだろう。

 

 

 

ベッドサイドの携帯電話を手にとる汀。

成久と会う直前から、電源を切ったままにしていた。

 

 


ツーーと音がして、液晶が鈍く輝く。

メールが10件ほど溜まっていた。

 

 


あの人からだ・・・

優しい言葉で、

とても心配している。

 

 

 

会いたい・・・

声だけでも聞きたい。

 

 


でも・・・

それは出来なかった。

いったい何て言うんだ?

 

 

 

汀は、短いメールを一通、打ち込んでゆく。

涙で文字がにじむ。

 

 

送信が終わると、電源を再び落とす汀。

 

 

もう・・・

会わない・・・

 

 


枕に顔をうずめ、声を殺して泣いた。

いつまでも・・・

 

 

 

Copyright(C)2002-2009 tukiya All Rights Reserved.
 

PR
since 2009/01/17~
ぱちぱち♪ーー更新履歴ーー
★--更新履歴--★
2009,06,21

素敵サイトさま、1件。1月31日。じゅん創作、運命は、奪い与える。本編、番外。全掲載完了。
ただいま、運営テスト中
かにゃあ♪
メインメニュー
goannai
goannai posted by (C)つきやさん
猫日記、ポエム、絵本など。
プロフィール

引きこもり主婦、猫好き、らくがき、妄想駄文作成を趣味。
ブログ内検索
P R
忍者ブログ [PR]