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目を覚ますとすでに朝になっていた。
夢ではなかったんだ・・・
俺は岬さんの腕の中に居る・・・
カーテンの隙間から朝日が零れる。
ベランダで小鳥が鳴いている。
こんなに気持ちのいい朝は、久しぶりだった。
「春樹・・・これからは毎日、二人で朝を迎えよう・・・」
清田は、嬉しそうに笑顔でうなずいた。
いったいあと何回、朝を迎える事ができるのだろう・・・
心残りは、直美と榊の事だった。
二人は、俺を宝物のように想ってくれた。
もちろん俺も二人の事が大好きだ。
岬とは別の意味で・・・
俺にとって 二人はかけがえのない存在なんだ。
あんな別れかたのままで、死んでゆくわけにはいかない・・・
朝食を取りながら清田は岬に切り出した。
「岬さん・・・俺・・・二人にきちんと話をしてこようと思うんだ・・・
今日は通院の日だから、直美さんも榊さんも、休みを取ってくれているはずだし・・・」
岬には清田の考えている事が手に取るようにわかっていた。
「そうだな・・・俺も一緒に行くべきだろう・・・」
俺が行っても・・・
いったい何と言えばいい?
何を言っても許されない・・・
許してくれなくてもいい
憎まれてもいい
それでも
俺は二人にきちんと会うべきだ。
少し難しい顔になった岬に清田が冗談を言う。
「じゃあ岬さんが先に独りで行ってね・・・俺は後から行きますから・・・」
「はーるーきーっ!!・・・」
岬は笑いながら清田を抱き寄せ・・・
二人はキスを交わした。
まだ・・・笑う春樹が見られる・・・
最後の瞬間まで、側に居られる・・・
岬は幸せだった。
だが・・・
清田はどこかで感じていた・・・
最後の瞬間が・・・
近くなっている事を・・・
直美は、一晩中 榊の腕の中で泣き続けた。
そして、すっきりしたのだろうか・・・
朝には、完全に落ち着きを取り戻していた。
「清田君、行っちゃたね。でもこれでいいんだよね・・・」
「ああ・・・そうだな・・・清田の決めた事だ・・・
私達は彼の味方だろ?・・・」
大丈夫だ、上田君は強い・・・
その時、榊の部下から携帯電話に連絡が入った。
「はい、榊・・・何だって?・・・どうにかならないのか?・・・」
「榊さん?・・・仕事?・・・」
直美の問いに榊は、電話をもったままうなずく。
「行ってよ・・・もう大丈夫だから・・・」
「本当に、一人で平気か?」
玄関先で榊を見送りながら、直美が笑う。
「ごめんね、心配させて・・・もう大丈夫だから仕事頑張って・・・
事件を一杯抱えてるんだから・・・」
榊は、「大丈夫」と繰り返す、直美の言葉を信じて迎えの車に乗った。
昨日のあの取り乱しようから・・・
一晩だけで・・・
あそこまで冷静になれるものか・・・
榊は車に揺られながら、一抹の不安を感じていた。
榊を見送ってから、程なく・・・
何処へ行くのか、マンションを後にする 直美。
「私は大丈夫、さあ赤ちゃん行こうね・・・お父さんを迎えに・・・」
直美は、笑った。
榊を見送った時の微笑とは違う・・・
狂気に歪んだ微笑・・・
許さない・・・
許さない・・・
許さない・・・
この子のために・・・
その手に「狂気」を忍ばせて・・・
榊の乗った車は、本庁に着いていた。
しかし、どうしても不安が拭い切れず、車から降りる気にならない。
「車を官舎にやってくれ。」
榊は運転手に言った。
「しかし・・・」
「いいから!!早く・・・」
榊のせっぱつまったような声に、運転手は黙って車を出した。
杞憂であればいいが・・・
そう願う榊だった。