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「おめでとうございます。妊娠三ヶ月目です。」

 

「えっ?!」

 

 


直美は、医師の言葉に耳を疑う。

妊娠?・・・あの時の・・・

 

 


生理が遅れていたので、気にはなっていた。

まさかとは思ったが、産婦人科の診察を受けにきたのだ。

 

 

 

 

「大丈夫ですか?」

 

 

 


医師の心配そうな声に直美は我に返る。

自分でも気が付かないうちに泣いていたのだ。

 

 

 

 

 

「もし・・・産めないのでしたら、処置は一日も早い方が・・・」

 

 

 

直美は医師の言葉を遮る。

 

 

 

 

 

「産みます!!」

 

 

 


・・・・処置なんて・・・するわけがない。

清田君の命を伝える子供を・・・するわけが・・・

 

 

 

 

 

「そうでしたか、すいませんでした。安定期に入るまでお体を大切にして下さい。」

「ありがとうございました。」

 

 

 

 

 


直美は、挨拶をして診察室を後にした。


清田君の子供・・・

彼は喜んでくれるかしら?

 

 

 

直美は、幸せな気分だった。

現実を思い出すまでは・・・

 

 

 

 

 

 

喜ぶ?

清田君が?

 

 

 

 

 


もうすぐ・・・死んじゃうのに・・・

きっと・・・この子の顔さえ見ないで

嫌!!

嫌・・・

そんなひどい話はない・・・

 

 

 

 


そうよ・・・

死んじゃうなんて・・・

嘘よ・・・

この子を置いて逝くはずがない・・・

 

 

 

 

 

直美は夢見た。

 

 

 

 


清田君と子供と私・・・

3人で暮らすのよ・・・

誰にも邪魔はさせない・・・

直美は、幻想を信じ込んだ。

彼女の心は、現実を受け入れるのを拒否してしまった。

 

 

 

 

 

清田を失う怖さ・・・

それが・・・直美の心を狂わせ始めていた・・・

 

 

 

 

玄関が開く音に清田は目を覚ました。

自分でも、気がつかないうちに眠ってしまっていたらしい。

 

 

 

 

 


清田は、部屋から出るとリビングにむかう。

そこには、直美が少し赤い顔してソファーに座っていた。

清田を見ると幸せそうに微笑んだ。

 

 


それは、久しぶりに見る直美の笑顔で・・・

清田も嬉しくなり微笑む。

 

 

 

 

ずっと、辛そうだった直美の顔が久しぶりに笑ったから・・・

直美は、清田の笑顔を見て喜んだ。

 

 

 

 

きっと、彼は喜んでくれるに違いない・・・

 

 

 

 

 

「清田君、私ね・・・子供が出来たの。あなたはお父さんになるのよ。」

 

 

 

直美の言葉に清田は驚き固まる。

直美が何を言っているのかわからなかった。

 

 

 

 

 


誰の子?・・・

俺の子供だって?・・・

ああ・・・

まさか・・・

あの時の・・・

 

 

 

 

そう理解して、清田は何と答えていいのかわからなくなる。

自分の子・・・

想像してみたが・・・現実感がわかない・・・


自分の死後生まれる子供・・・

父親のいない子供・・・

 

 

 

 

 

「清田君、喜んでくれないの?」

 

 

 


悲しそうな直美の声に、清田は慌てて否定する。

 

 

 

 

 

「直美さん・・・産むの?」

 

 

 

 

 

きっと・・・大変だろう・・・

 

 

 

 

 


「もちろん、産むわよ。清田君の子供だもの、きっと可愛いわ。

ねえ、その前に・・・結婚式あげなきゃね。それから家も探さなきゃ・・・」

 

 

 


「直美さん?」

 

 

 

 

 


直美は、夢見るように続ける。

 

 

 

 

 

「清田君には、頑張って働いてもらわないと・・・この子のためにも・・・」

 

 

 

 


直美さんは・・・何を言っているんだ?・・・

 

 

違和感を感じる清田。

 

 

 

 


「清田君・・・」

 

 


直美は、清田がひどく驚いた表情を浮かべているのに気が付く。

 

 


「まだ岬さんの事を愛してるのね・・・

考えても見てよ。岬さんにも もうすぐ子供が生まれるのよ。

ねえ・・・・あきらめてよ・・・この子を愛して・・・!!」

 

 

 


言葉を失う清田に、直美は詰め寄る。

 

 

 


「こんなに・・・愛してるのに・・・どうして・・・愛してくれないのっ!!」

 

 

 

 

取り乱し、泣き叫ぶ直美。

 

 


おかしい・・・

昨日までの直美と違う・・・

どうして?

 

 

 

 

 


「清田君・・・私を愛して・・・私を見てよ。」

 

 

 

泣きながら直美は訴える。

 

 

 

(岬さん・・・俺だけを愛して・・・俺だけを見て・・・)

 


清田は、自分の姿を鏡に映して見たような錯覚を覚える。

もう一人の自分を見ているような・・・


醜い・・・


見ていたくなかった。

これ以上直美の事を・・・

 

 

 

 

 

 

清田の身体に、直美が抱きついてくる。

 

 

 

 

「清田君・・・」

 

 


清田は、反射的に彼女を突き飛ばしてしまう。

 

 

 

 

「キャ!!」

 

 

直美はソファーに転がった。

清田は、自分のしてしまった事に愕然とする・・・

 


妊娠しているのに・・・

自分の子供を・・・

 

 

 


「ねえ・・・どうして私を愛してくれないの・・・」

 

 

 

直美の言葉が胸に痛かった。

安らかな死を望んだ、自分への罰だと思った。

彼女の気持ちを利用した罰だと・・・

直美は苦しかったに違いない。

ずっと・・・

ずっと・・・

どんなに・・・辛かっただろう・・・

 

 

 

 

 

自分だけが苦しいと思っていた・・・

他の人の苦しみを見ないようにしていた・・・

 

 

 

 

 

 


「ごめん・・・」

 

 

 

 

 


そう呟くように言うのが、精一杯だった。

これ以上直美を見ているのが辛い。

俺は 無意識のうちにその場から逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

玄関の所で、仕事から戻ってきた榊に会う。

様子がおかしい清田に、榊が問いかける。

 

 

 

「清田、どうしたんだ?」

 

 

 

何も答えられない。

リビングの方から、直美の泣き叫ぶ声が響きわたる。

 

 

 

 

「榊さんっ! 清田君を止めてっ!!・・・彼が行っちゃうっ!!」

 

 

 


とっさに清田の両肩を掴む榊。

榊は、清田の目を見て、彼の気持ちを悟った。

 

 

 


・・・行くのか?・・・清田・・・あの男のもとへ・・・

榊は、以前から予感していた。

いつかは、この日が来ると・・・

 

 

 

 


「行け・・・清田・・・」

 

 

 

 


優しい声だった・・・

いつだって・・・

榊さんは・・・

優しい・・・

 

 

 

 

 

「ごめんなさい・・・榊さん・・・ありがとう」

 

 

 

 

 

清田は、ただ謝るしかなかった。

何も出来ない。

愛されているのに愛を返す事が出来ない。

 

 


直美の叫ぶ声に背を向けて、清田は外に飛び出した。

 

 


何かから逃げるように・・・

愛情が

からみつく・・・

 

 

 


愛情が

重かった・・・

 

 

 

 

 


愛情が

怖かった・・・

 

 

 

 

 

「どうして?清田君・・・何で愛してくれないの・・・こんなに愛してるのに・・・」

 

 

 

 


リビングで泣きじゃくる直美を見て、榊は呆然とする。

 

 

 

 

 

あの気丈な直美が・・・

何かが・・・おかしい・・・

 

 

 

 

 

「清田君・・・どうして・・・」

 

 

 

 


清田を求めて涙を流す・・・

そんな直美が哀れで・・・

榊は彼女を抱きしめる。

かける言葉がみつからない。

 

 

 

 

何を言えばいいというのだ・・・

こんなに、清田を求めて泣いている彼女に・・・

私は、彼女のように手放しで泣く事が出来ない・・・

そう出来れば・・・

この胸の苦しみも少しは薄れるのだろうか?

 

 

 


榊は、何も語らず・・・

ただ直美を抱きしめていた・・・

 

 

 

 

直美は泣いた。

榊の腕の中で・・・

 

 

 


清田君・・・

こんなに愛してるのに・・・

本当に愛してるのに・・・

愛してる気持ちは誰にも負けないのに・・・

 

 

 


何で・・・

どうして・・・

この子はどうなるの・・・

私は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何処をどうさまよったのか・・・

気がつくと清田は、岬の住む官舎の前に居た。

 

 

 

 

岬の部屋を見上げるが、

灯りは消えていて、留守のようだ。

 

 

 

 

まだ、甘えようとしている自分がいた。

 

 

 

 

それも・・・岬に

俺はこれ以上生きている資格はない・・・

だから・・・

最後に一目だけでも・・・

会いたかった・・・

会ってどうする?

岬には愛する人がいるのに・・・

 

 

 

 

 

ズキン・・・胸が痛い・・・

 

 

 

 

 

岬さん、嫌だよ。

俺だけを見てよ。

その腕で他の人を抱かないで・・・

その瞳で他の人を見ないで・・・・

 

 

 

 

 

 


直美の言葉を思い出す・・・

俺は直美さんに苦しい思いをさせていた。

 

 


自ら岬との関係を終わらせたのに・・・

自ら望んで直美と榊の世話になったのに・・・

 

 

 

 

 

それはよくわかっている

わかってはいても

変える事のできないこの気持ち

 

 


本当は・・・

岬を誰にも渡したくない・・・

 

 

身勝手だ・・・

誰にも顔向けできない

生きている価値さえない

今こうして息をしている価値さえないのかもしれない・・・

 

 

 


ぽろぽろと清田の瞳から涙が零れる。

 

 

 


「ごめんなさい・・・」

 

 

 


誰に謝っているのでもなく・・・

清田は謝る・・・

 

 

 

 

 


胸の中で押さえつけていたものが・・・


溢れ出る。

 

 

 

 

 

 

切なくて、寂しくてどうしようもなかった。

 

 

 

 


怖い・・・

恐ろしい・・・

死にたくない・・・・

もっと生きていたい・・・

あの人と・・・

 

 

 

 

 

 


「みさきさん・・・ふぇっ・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会いたい・・・・

 

 

 

 

 


とめどなくあふれる涙。

 

 

 

 

 


俺はわがままだ・・・

 

 

 

 

すべて自分でまいた種だ。

もうどこにも帰るところはない

 

 

 

 


ここにいても・・・

仕方がないのに・・・

 

 

 

 

 


清田は、ずるずるとその場に崩れ落ちる。

 

 

 

 

 

「岬さん・・・」

 

 

 

 

 


その声は闇に吸い込まれ消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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